未夜野

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さよならを言う前に

久しぶりに会った父は変わらなかった
小さい頃はこういうものだと受け入れていた
独特のファッションも変わらず
今見るとなんて変な格好なんだろうと思う
けど、それすら愛おしく感じる
もう私も幼くないな
父を可愛いと思える程度には大人になった

姉と3人で食べる夜ご飯会は
父が一人暮らしになってから始まった
もう何回目かわからない
今日もたくさんのご馳走を食べて
満腹と幸せに満ちた帰り道だ

帰り際、いくつになっても姉は父に抱きつく
姉は愛情表現ができる人だ
すごいな
いつからか恥ずかしくてできなくなった
でも感化されて手を出した
握手は親子の別れ際ではおかしいし
と、ハイタッチのようになってしまった
私の手に父は手を合わせて
恋人繋ぎのように握り返した

ゴツゴツとした
‘’父の手”だった
強めの力で握られ、
元気でやれよか何か言われた

次に会った時、
私が初めて触れた物はゴミ袋だった
血だらけになった父の服達が入っている
いつも身につけていた、
あの独特のファッションたらしめるそれ達だった

父の手はもう私を握らない
変わらずそこにあるけれど
もう、握ることはできない

さよならの前に握ったあの手は
私にさよならを伝えたかったのだろうか

8/21/2023, 5:57:05 AM