√6

Open App
5/9/2024, 11:42:20 PM

 暗がりの中、心臓に鈍色を刺し込んだ。罪悪感と高揚感に支配され、そのまま汚れることも厭わずに秘密裏に事を成す。厳しい寒さがチリチリと肌を刺す。決して忘れることはないのだろう。

 怪しい宗教にハマり幾らか借金をした後、週4のバイトで生きながらえる生活を送っている。今年で24になる。
この生活も かれこれ2年経つ。

 毎食がカップラーメンの食生活となってしまっている。
なってしまったとは言ったものの、そこまで気に入らないわけではない。栄養は度外視するとして、ボリュームあり、安価で 食べたいときにすぐ食べれるのは非常に魅力的だ。

 そろそろ正月になるため、実家に顔を出さなければ いけない。
正直、ここ2年近く 移動費を残しておくのを忘れて実家に顔を出していなかったため、実家から招集をかけられたのだ。

 正直、正月は苦手だ。親戚が多く顔を出す訳だが、優秀な兄を持つと苦労する。
 何時も兄と比較され、惨めな思いをするだけだ。
 特に叔父は苦手だ、声が馬鹿みたいに大きく、牧場を管理しているだけあって大きな体で何時も威圧しているような風貌をしている。
 宗教にハマった際にお灸をすえてくれた事については感謝はしているが、それでも苦手意識は拭えない。

 実家につくと、例年通りバタバタと慌ただしい。おおかた明日の年越しの食事を準備しているのだろう。親戚の子供達がバタバタとはしゃぐ音が聞こえる。あまり関わりたくないため挨拶だけしてそのまま食事時まで昔のままになっていた部屋で過ごした。
 親戚一同での食事の席で、やはり両親の『定食に就け』攻撃や、『兄を見習え』攻撃、『うちで働け』等 予想通りの精神攻撃の嵐だった為、早々に食事を切り上げ 自室に帰り、眠りにつくこととなった。

 しかし、あまりの空腹に目を覚ます。携帯電話を見るとまだまだ丑三つ時の時間だった。朝飯にはまだ早い。
 あまりの空腹に耐えきれず、携帯電話のライトで、調理場まで忍び込んだ。料理については幾らか自信がある為、自分で夜食を作ることにしたのだ。

 冷蔵庫を開くと、やはり明日の分の食事の準備がされており、いや今日の分の食事だ。そんな事はどうでもよく、1、2品くらい食べてしまってもバレないであろうと考えた。
 冷蔵庫をまさぐっていると、マジックで名前が書かれた袋をいくつか見つけた。中には幾つかのジップロックに臓物が入っていた。文字から推測するに叔父が書いたものだろう。
 それは、例年通り叔父が親戚に配っているものだと 察するに難しくは無かった。 袋に兄貴の名前が書かれたモノを探し出し、ジップロックを一つ抜き出した。
 それをシンクで開き、水洗いをし 中身をまな板に置いた。

  豚ハツだった。

 水でよく洗い、その心臓に鈍く光る包丁を刺し込んだ。
そのまま一口程に切った後、冷やした塩水に漬けておく。その間に調味料を用意しておき、フライパンを使うため窓を開けた。
冬の寒さが身に沁みる。ハツに火を通し、調味料で味を整えつつ、料理を完成させた。

 匂いが漏れないように料理を食べ終えた。長らくジャンクフード以外を食べていなかった体に、ハツが良く染み渡る。
 気力が漲る。氷水に入ったように体が引き締まる。今日この日まで、自分は一体何をしていたのだ。ただ自堕落に生きていただけか。これからも現実から目を背け、現状に満足していると錯覚し続けて生きていくのか。人間誰しも大人に成らなければいけない。
 叔父に頼み込んで働かせてもらおう。そう決意して、再び床に就いた。
 今日の事は、決して忘れることはないだろう。

5/8/2024, 8:31:53 PM

 思えば あっという間だった。

この場所に来てから、慣れない事も多くあったが徐々に適応していった。 住民達ともコミュニケーションが取れるようになったし、衣食住も十分な生活を送れている。 今日は、私がここに来てから1周年パーティーも兼ねているらしい。 文化圏の違いも嬉しいときも有るのだ と、ひしひしと実感する。

 今日の献立は、色とりどりな果物を手のひら大 に切り分けたものと、こぶし大のクッキーの様にサクサクとした食べ物だ。果物が出るのは大変珍しい。なにせ、住民達もこの果実を用意するのに四苦八苦しているようで、月に一度出ればいいほうだ。しかし、蜜柑のような実に、林檎の様な甘酸っぱさが癖になる。アボカドの食感のパイナップルの風味なものも美味だった。

 衣服については、私の布団くらいの大きさの布を体に巻きつけるスタイルの様式だった。郷に入っては郷に従えと言うし、不満などは無いのだが 如何せん股に風が通り抜ける感覚は、今でも落ち着かない。
 家については、硬い床の上に コルクチップのようなものを撒いたものと、ちょうど体が入る横穴の寝床があるものだった。

 こちらの生活の説明は以上で終わりとする。こちらの住民は、人間に対し非常に友好的なため、他星人に奴隷にされるよりかはマシだと考えられるが、こちらの星の生物との力量差が大きいため、人類のみで文明を再興するのは難しいと思われる。また、体長10m未満の知的生命体が絶滅の危険があるとのことなので、地球内で再び戦争等で人類文明に大打撃が無いようならば、介入しないと思われるので、判断等は一任する。