《宝物》
失ってから気づくもんだよね。
それが宝物だったってことが。
どんなに大金をはたいたって買えないもので
唯一無二で。
毎日喧嘩ばっかりしてたことや
嫌なことばかりを思い出すからと
貴方の作品を叩き割って捨ててしまった。
重ならないお椀。
最初からヒビの入った大きな絵皿。
茶道なんて、たしなまないのに
たくさんある抹茶茶碗。
手元に残してるものも捨てた作品も
どれも同じようなものなのに
捨てた器ばかりが気になってしまう。
なにもかもが《宝物》なんだと思う。
そんな今日は父の命日。
貴方の作品は、毎日の食卓に欠かせない。
《束の間の休息》
ただいま〜と
荷物下ろして晩ごはん
支度をはじめるその前に
束の間の
休息を取ろうと座ってしまったら
束の間が束の間でなくなってしまう毎日
《たそがれ》
「たそがれ」って。
誰そ?彼?って事やったんちゃうかなぁ。
あの人、誰?って。
どこがで聴いたような。
何で知ったかもわからないけれど。
向こうに誰か居るのはわかるけれど
誰だか判りづらい
くらいの時間帯の事やったんちゃう?
しらんけど。
頭の中、たそがれてるな。
《きっと明日も》
今日という1日を過ごしたのだから
昨日より経験値上がってるはず。
だから
きっと明日も
今日より経験値が上がるはず。
《静寂に包まれた部屋》
〜静寂をあなたに〜
行き交う人の話し声、自動車の排気音。
けたたましいサイレンやスマホのプッシュ通知など。
身の回りの日常の騒音から離れてみませんか?
✳︎「静寂に包まれた部屋」には
何も持ち込むことはできませんのであらかじめご了承ください。
そんなチラシが郵便受けに入っていた。
通勤に使う駅構内、狭いホームには
観光客がゴロゴロ運ぶトランク、飛び交う外国の言葉
頭の上から降ってくる大きな声のアナウンス。
そしてプラットホームに出入りする電車の騒音。
耳栓をしてちょうどいいくらいの音量。
やかましいのは疲れると思っていた時に
このチラシを見たものだから
つい予約しようかと思って問い合わせた。
手荷物は全て受付に預けていただきます。
衣類の擦れる音もないように更衣室で専用の服に着替えてもらいましたら、部屋にご案内させていただきます。
部屋といってもカプセルホテルのような
寝ることができる最小限のスペースです。
扉の鍵は外から掛けますので、時間になれば
鍵を開けに参ります。
照明もありませんので扉の開け閉めする時だけ
廊下の明かりが部屋に漏れる程度です。
皆様、居心地がよろしいようで、長時間利用される方
ばかりですよ。
との事。
落ちていたノートのページに記されていたのは
ここまで。
書いた人がその部屋に行ったかどうかはわからない。
耳栓したら外からの騒音は小さくなるぶん
自分の内側からの音が大きく聞こえるんだよね。
その部屋って棺桶っぽいよなぁ〜
死んでたらどんな音も聞こえないもんな。。。
え?