台風が近づいてきたり、ただの雨だったり、急な豪雨でも、頭が割れるような痛みがでる。
だから、夏から秋にかけては最悪。
冬の低気圧も、急な気温差でもこの頭痛はやってくる。
春になる前の三寒四温なんて最悪に痛む。
春が落ち着く頃には梅雨が始まる。
小さい頃からこの頭痛に悩まされてきた。
小さい頃は、地球温暖化が進んだら砂漠になって雨が降らなくなるって思っていたのに、温暖化、異常気象、Uターン台風なんて厄介なのが増えるばかり。
頭痛がしたら、痛み止めの薬を飲む。
でも、小さい頃から飲んでるせいか最近、薬の効き目も良くない。
テレビで天気痛って呼ばれて紹介されて認知されてきたけれど、だからと言って対処法は役に立たない。
手足を温めるといい。なんて言われても、職場は私1人じゃないし。靴下履いてネックウォーマーしてなんてできる職場じゃない。
天気痛持ちだからって簡単に転職できるわけじゃない。
この頭痛、どうしたもんかと様々な天気予報見ながら自分でどうにかするしかない。
職場の休み時間、ランチに出ようと会社の受付を通ると、キーンと頭の中で音が鳴り、目眩のようなグラグラする視界、吐き気と同時にグリグリと頭を踏まれたような痛み。コレは急な豪雨の痛み。
あと数分もしないうちに雨が降り出すだろう。
急いで昼ごはんなんて無理。痛いし気持ち悪いし立ったいるのもしんどい。
玄関の壁に寄りかかって、お昼を諦め痛みがおさまるのを待つ。
スーっと、役員用の車が玄関前に止まる。
横目に見ながら、重役の誰かが昼の会合か何かだろうな。
しばらくして、おじいちゃんと言える年配の男性が玄関から出てきて、その車に乗り込むのが見えた。
心の中で『もうすぐ豪雨ですよー』なんて呟く。
ふと視線を感じて、目を上げると目の前に重役らしきおじいちゃん。と、秘書?
「どうしたの?」と、不思議そうに声をかけてくれるおじいちゃん。
「天気痛で少し体調が良くなくて、休ませて頂いてます」
「今は昼休みだから休む時間だよ。今、すごく晴れてるのにどうして痛むの?」
「私は雨が降る少し前に痛み始めるので…」
「そうなんだね。じゃあもう少ししたら雨かねぇ」
「はぁ。多分ですが…」
「そうか。ありがとう。お大事にね」
そう言って、ゆったりした足取りで車に乗り込んで、音もなく出発した車を頭を下げながら見送る。
空を見上げると晴れ。ところどころに雲がある程度。
都会の空を見上げたって、一部しか見えないけれど。
痛みはどんどん増して、ポケットに痛み止めを入れていなかった事を後悔する。
もう、立っていられなくて座り込む。
早々にランチを切り上げた人たちが玄関を通るときに不審な目を向けられる。
あぁ、もう頭を誰かかち割ってくれと思うほど痛みが激しくなった頃、ドーンと大きな雷の音と同時にバケツをひっくり返したような雨。
あぁ、やっぱり。
次の日。
昨日の雨は1時間もしないで止んだ。
しかし、最近豪雨が増えて、地盤の緩んだ地域ではそれなりに被害が出たとニュースで知った。
今日も降るかもしれないとポケットに痛み止めを入れてデスクワークに励む。
もうすぐお昼、という頃に、昨日のおじいちゃん。
いや、重役。
「いやー。昨日本当に雨が降ったね。凄いね。」と、まるで友達に話するように声をかけられてびっくり。
「はぁ…」としか言えない。
「それでね、明後日、ゴルフなんだけど雨降る?予報が50%で当てにできなくて、君を思い出して聞きにきたの」と。
「…申し訳ないのですが、私ではなんともわかりかねます…」
「?でも、君は昨日ピタリと天気当てたじゃない。昨日は晴れの予報だったのに。」
「………昨日は偶然と言いますか…」
「天気痛って言ってたから、テレビの予報より当たるんじゃないかと思ったんだがねぇ」
私も天気予報より自分の頭痛の方が確率よく当たる。
当たるだけで占いみたいなもん。
私がいるところより少しばかりズレて集中豪雨なんてこともザラにある。
「残念ですが、その件に関してお役に立てず申し訳ございません。」って言うしかない。
「いいの。いいの。でも凄く辛そうだったから、天気痛のある人が休める場所あった方がいいね。僕たちもそこに人がたくさんいたら雨の前触れってわかるしね。休憩室みたいな何か考えてみようかね」
!!!神!!!
「ありがとうございます!あると大変助かります。」
「そうか。そう言った福利厚生あったら面白いしね。期待しないで待ってみて。」
おじいちゃんはノロノロとオフィスをでる。
アレは一体誰?
と、思っていたら、部長が「知り合いなの?」と聞きにきた。昨日の経緯を簡単に説明する。
「あの人、営業部長から上がった役員だから人と会う事多いからかなぁ」
って。なるほど。役員さんは間違いなかった。重役の年齢だと思ってごめん。
でも、天気痛とかPMSとか医者にかかるほどじゃない程度の休める場所があれば、痛みが引いたら仕事戻れるし、帰らないでいいからありがたいなぁ
って、オフィスの小さな窓から空模様を伺いかながら我が社の福利厚生に期待する。
ジーっくり鏡を見る事なんてない。
着飾るのは仕事の時だけ。
見た目はお金のため。
自分がどう見られるかなんて知らない。
お金になるからその服着るだけ。
そんな私が結婚して、子供を産んだ。
なんて綺麗なお母さん!
ってお世辞かどうかわからない言葉が懐かしいと思う頃。
子供と風呂上がりに自分の真っ裸を見た。
誰だこの妖怪…
『昔は細身でモテたのよ〜』
なんて義母の言葉が聞こえた気がした。
ヤバい。
鏡に顔を近づけてみる。
うっすらとシワ、シミ、タルミの三原則。
ヤバい。
やっとけばよかったオシャレ。
私には関係ないとばかりに無視した美容法。
今ならまだ間に合う?
手遅れ?
よくわからないけれど、手荒れ予防に使ってるニベアのハンドクリームを顔に塗る。
暇ができたら若返りだとか美容だとか頑張ろう。
子供と遊ぶ以外に体も引き締めて…
無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理
「可愛いね」「お利口さんね」「自慢の子ね」
ずっとそう言われて育った。
中学受験の時は、親も必死。私も訳もわからず必死。
ちょっと成績が悪かったら、
「どうして?」「なんで?」「頑張りなさい」
って言われたけれど、どうやったら成績が上がるのかわからない。私なりに十分頑張ってる。
成績の下降が続いたらついに親が私に手をあげた。
殴る。蹴る。
怖いし痛い。
小学六年生の楽しい記憶はない。
第一志望とはいかなかったけれど、親からオチコボレと言われない中学に入学できた。
中高の一貫校で、とりあえず一安心。
なんて思っていたら、親の監視は酷くなる一方だった。
リビングに監視カメラ。
携帯、パソコンの利用制限は常軌を逸したものになり、友達関係も上手くいかなかった。
だんだんと学校に行きたくなくなる。
でも、家にいるのはもっと嫌。
親に内緒で買ったSIMフリーの携帯は瞬時に見破られた。
楽しいと思えない毎日がすぎて、高校三年生。
親から逃げたい一心で県外の大学に行きたいけれど、やる気なく通った学校で、成績も芳しくない。
しかしながら、大学で家を出ること。
これが叶えば、今より楽になれる気がする。
だから、遅れながらも今、必死に勉強する。
親が、『いいよ』って言ってくれる大学に入るため。
親が学費も生活費もくれなくていい。
高卒で働いてもいい。
でも、親は許してくれないだろうから。
私が死ぬまで捨てられないのは血縁かもしれない。それでも離れることはできるよね?
可哀想な人だけど、私を産んでくれた人だから仕方ない。
産んでくれとも頼んでないけど、産まれた私がこんなのだとわかっていたら返品したかっただろう、可哀想な親。
これから先の未来は変えられるけど、いつまでも捨てられないのは親子の思い出かもしれない。
順調!食べづわりはあるけれど、そのせいで随分と体重も増えたけれど、お腹の赤ちゃんの成長は順調!
妊娠適齢期ってのがあるのかわからないけれど、産院の中では随分と若いお母さんの部類にはいる私は23歳。
旦那も若い部類になる。
マタニティビクスっていう、妊婦さん専用の体操教室のある産院のおかげで、体重急上昇した私はそこに入れてもらえて、ママ友ができた。
一緒に汗を流してランチに行って。
みんな大体出産の時期も同じくらいの予定だから、タマゴクラブ仲間として大変心強い。
大体みんな私より10歳くらい年上だからお姉さんみたいな感じ。そうというのも皆、初産仲間だからかも。
私のお腹の子が9ヶ月になる頃には、仲間の誰かが毎週のように出産していった。
マタニティビクスに行くついでとばかりに出産祝いを持って、自分の事のように嬉しく思った。
私も早く赤ちゃんに会いたいって思った。
旦那は、甥っ子や姪っ子がたくさんいるからか、私の出産にはあまり興味もなくて、寂しかったけれど、お腹に子供のいない男性にまだ見ぬ我が子のパパを求めても仕方ないって思って我慢してた。
そんなある日、旦那が出張になった。
車での移動だし、お天気はいいしで、行ってらっしゃいと見送った後、簡単にお昼ご飯にしようかなーなんて呑気にキッチンに立つと、下着に違和感。
もしやとトイレに行く。
下着にはベッタリ血。
便座に座ったら血がボトボトと落ちる。
コレがオシルシってやつ?と、約1年前の生理用品を使って、リビングに行き。
私、やっとお腹の子に会える!嬉しい!
って思って産院にオシルシの連絡をしたら、
「今から一歩たりと動くな!救急車でこい!」と、年配のおじいちゃん先生に叱られて訳がわからない。
とりあえず、救急車に連絡。
「妊婦です。オシルシだと思って産院に連絡したら救急車でくるようにと言われまして…」
具合が悪いわけでもないのに申し訳ない気持ちで救急車を呼び、じっと動かないでいる間に旦那にもメール。実母には電話。
実母はすぐ行く!と片道2時間の距離を急いできてくれるらしい。
お腹をさすりながら、「おばあちゃんも来てくれて嬉しいね」ってお腹の子に話しかける。
到着した救急車にかかりつけの産院を伝えて連れて行ってもらった。
住んでるマンションの住人に何人か会って、「頑張ってね」って声をかけてもらって、出産が怖いと思った。
何時間とか何十時間もかかる人もいるって聞くし。
産院に着くと看護師さん達が玄関で待機してくれててストレッチャーのまま、診察室へ。
診察室ではおじいちゃん先生が珍しく機敏に動く。
先生、まだまだ元気だねって、痛みもないし、余裕で観察してた。
「ここでは産めないから総合病院にまわすよ!」と、先生がいい切らぬうちにストレッチャーで救急車に戻る。
結婚を機に、この地に来て、総合病院がどこにあるかなんて知らない。途端に不安が襲う。
すると、お腹がグニグニ〜と、動く。赤ちゃん。
赤ちゃんが産めるならどこだっていいって腹を括る。
総合病院でも看護師さん達が出迎えてくれてストレッチャーに乗った私は猛スピードで診察室を超えて手術室。
お腹や胸や指にペタペタと先を張り付けられて、ピコピコなる機械と、先生。
若い女医さん。
モニターを見ながら何も言わないから不安。
だけど、何も言わない方がいい気がして、私も無言。
女医さんが「あ…」っと言ったような気がする。
瞬間ストレッチャーは本物の手術室へ。
テレビで見た事ある、シーツを掴んで『せーのっ』の掛け声で手術台へ。
あれよあれよと、手術の準備が進み、
女医さんが
「キャー!」って言って私のお腹にメスを入れた。
麻酔していてもわかる。
それからバタバタたくさんの人が出て行って、この部屋にこんなたくさん人がいたんだってびっくりした。
シーンと静まりかえった部屋で、時計を見たら13:10
私の子供が産まれた時間だ!覚えておこう!
五分たっても静かな部屋。
私の赤ちゃんはどこ?
私のお腹どうなってるの?
不安で心配で、誰もいなくて泣きそうになった頃、みんなが出て行った出口とは別の扉から赤ちゃんを連れて先生が来てくれた。
白い布に包まれた赤ちゃん。
顔を真っ赤にして泣いて、指をぴーんと伸ばして。
さぁ、カンガルーケアってやつよね?って思ったら、
「赤ちゃんにはまたすぐに会えますからね」の声を皮切りに意識が遠のいた。
目が覚めたのが個室ならよかった。
生憎、あきがなかったらしく4人部屋。
案外それでよかったのかも。
目が覚めた時、同室の人がナースコールをしてくれた。
看護師さんが来て
まずは赤ちゃんが無事な事。
明日には会える事。
今は麻酔が抜けてないからしんどい事。
後産っていう痛みがあるかもしれない事。
を、説明してくれて、今日は一日よく寝るようにと言われて、ほんとうにぐっすり眠れた。薬?使われたのか?
朝になると、旦那がベッドサイドの椅子に座ってた。
「赤ちゃんに会いにいく」
って言う私。
「わかった」
って了承する旦那。
2人でエレベーターに乗り赤ちゃんを見に行く。
ギャー!!と、NICUと書かれた部屋から看護師さんが出てくる。
「帝王切開した次の日に歩くな!」との事らしい。
でもせっかく来たんだからと赤ちゃんに会わせてもらえた。
退院する前の検診で教えてもらえた。
胎盤早期剥離ってやつだったせいで急な帝王切開になった事。
赤ちゃんの呼吸が五分近く止まっていた事。
そのせいで、なんらかの障害とか病気があるかもしれないらしい。
でも、大丈夫。やっと会えたんだ。
お腹の傷がジクジクするし、なんか力も入らないけれど、この傷は赤ちゃんと私が出会えた勲章。
今は腹の立つ反抗期真っ盛り。
私がお母さんになれたお腹の傷ができた日から私も強くなった。反抗期なんかに母の愛は負けないぞ!ってたるんだお腹の傷が誇らしい。
友達に「もうやめなよー」とか「帰ろうよー」
って言われてるけど、聞こえないふり。
やさぐれているんだ。私は。
今日のデートすっぽかされた。
これで3回目。
夕方にかかってきた電話で「寝てた」って。
そんな訳あるかい!
朝から駅で待ってたのに。
遅刻常習犯だった彼氏。いや、元彼氏。
だから、のんびり街ぶらしたりカフェでお茶したり、案外1人時間満喫しちゃうのに慣れちゃったけどさ。
でも、待ってたんだよ!
おーまーえーをー!!って心の叫びが届いたのか、帰ろうと思った駅のホーム。
止まった電車の扉の向こうに元彼氏と、その横にぶっさいく(に、見えただけかもしれない)な、女!
電車のドアが開いた瞬間に、元彼氏の股間に蹴りを一発。
うずくまる元彼氏と、私を睨んで叫ぶブサ女。
もちろん、その電車には乗らずに、別の電車で海に来た。
たまたま海に遊びに来ていたらしい友達と偶然会った。
友達は帰るところだったらしい。
私は今からあの薄汚れた元バカ彼氏に触れてしまった足を海の水で清めてもらうんだい。
私とさして仲良しなわけじゃないのに付き合ってくれる友達はきっといい奴。
私の心がやさぐれてるだけ。
学校始まったら是非、仲良くしていただきたい。
海で遊んで疲れたはずの友達は暗くなっても私を見張ってくれた。
日が落ちて、真っ暗な海が怖くなって友達のところに行ったら、
「遅いしー」
って、ぬるくなったコーラをくれた。
ぬるくて甘くて、ちっとも美味しくないのに最高なコーラだ。
きっと、夜の海ならではの味だな。