やりたいこと
・露語勉強
・伊語勉強
・お上品な人になりたい
・美人になりたい
・痩せたい
この願いを去年の大晦日に立てて以来、何も成し遂げられずに半年が過ぎました。
朝日の温もりを感じながら私は、ベッドから起き上がろうかと迷う。
もうかれこれ三十分はこうしている。
ぽかぽかした温かさとふわふわのベッドで、朦朧とした意識で今日起きる幸せについて考える時間。
私はこれが、お金や愛よりも自分を満たせる方法だと知っている。
「お前が決めて良い。…嫌なら断れ。」
私は今、間違いなく人生の岐路に立っている。
両親の反対、世間の反対。家柄。
そのすべてが障害になっている私達の人生。
貴方は私に、駆け落ちしようと言った。
私を見る貴方の熱っぽい目は、懇願するようにも見える。
頷けばずっと隠れて生きなくてはならない。断ればずっと鳥籠の中で生きなくてはならない。
その2つを比較した時、どっちが良いかなんて明白だった。
私は貴方の腕を強く引いて抱き締める。
「貴方と行くわ。絶対に離れない。絶対に貴方から離れたりしない。」
私がそう告げると、貴方は目を見開いたあと、強く抱きしめ返してくる。
「…ああ…。ずっと一緒だ。死んでも離さない。」
貴方の大きな手と私の小さな手を離れないようしっかり繋いで、夜の街に飛び出した。
絶望的な状況の中。
美しく輝く星の光が眩しくて、目を細めながら俺は君に言った。
「世界の終わりに、君と二人で話したかった」
「最悪」
今日は間違いなく人生で最悪の日だ。断言する。
私は私以外には聞こえないような声で気怠く適当に呟いた。
上司の尻拭いで取引先に土下座して疲れて帰ったのに帰ったら別の上司にブチギレられて、後輩は仕事押し付けてきて先に帰るし、先輩が勝手に私のデスクにおいてあったチョコを食べた。楽しみにしてたのに。
帰る途中人身事故で電車が遅延して仕方なく外に出たけどどこかで鍵を落としたしスマホも充電切れた。更に運の悪いことに普段キャッシュレスだから持ち金200円。
コンビニでコーヒーを飲みながら深い深いため息をつく。
お母さんとお父さんへの仕送りまだできてないしプレゼン資料も完成してない。あ、パソコン会社に忘れてきた。道理でカバン軽いわー。
さっき車に轢かれかけたし歩きスマホしてるやつにぶつかられて舌打ちされたし。
「あー最っ悪」
はぁ〜〜〜〜〜〜………と全身の力を抜くようにため息をついた。
次の瞬間、隣にコトリと音がした。
「…、?」
「やっほ。げんきー?」
私はそいつの姿を認識して、破顔したと同時に心底憎らしいと言いたげに睨んだ。
「…最悪!」
「え〜ひどくない?」
私の横に図々しくも座ってケラケラと笑うのは
「元カレに対して辛辣すぎ〜」
私の元カレ。
「なんでいんの?くそっ」
「ほんとに酷いね。ここ俺んちの近くだよ?」
私はハッとして外を見る。
そういえば疲れでボーっとする頭でもなんとなく何がどこにおいてあるか分かった。
私が今居るコンビニは、この元カレの家から徒歩3分だ。
「あ〜〜〜くそ〜〜〜〜〜〜」
「なにがあったのー。どしたん話聞こか?」
ヘラヘラした顔がうざくてちょっと肩を殴った。
「いたぁ…優しさで聞いてあげてるんじゃん」
「つ〜〜かれたぁ〜〜〜〜〜」
気づかないふりをして伸びをすると、無視?と悲しそうな顔をしてくる。
「はぁ………私の愚痴を聞け」
「いいよ〜」
澄まし顔で持ってきたミルクティーを飲む姿を見て少し顔をしかめてから私は一息で話した。
「上司の尻拭いで取引先で土下座して帰ったら別の上司に怒鳴られて後輩は仕事押し付けて先に帰るし先輩が勝手に私のチョコ食べたししかも帰る途中人身事故で電車遅延して仕方なく外出たけど鍵どっかに落としたしスマホも充電切れたから持ち金200円だしお母さんとお父さんへの仕送りまだできてないしプレゼン資料も完成してない上パソコン会社に忘れてきた!」
「壮絶〜」
再度深いため息を付いてから聞いた。
「あんたは?」
「俺は今日も楽しかったよ。いいデザイン思いついたから。元カノにも久々に会えたしね。」
胡散臭い顔で笑うコイツは建築家で、ずっと家に籠もって線引くのが仕事。楽しいらしいし天職だって言ってるけど全然良さはわからなかった。
「もーやだ。家帰れないし会社行きたくないとりあえず部署の人間全員凌遅刑」
「こっわ。日本にないよそれ。」
コーヒーを飲みおわって、とうとう頭を抱えた。
「……んー、実はさ」
「なに…」
あんたは少しうつむきがちになりながら言った。
「俺引っ越したんだよね。〇〇町方面に。本社自体が移動でさ」
「…は?」
その口から出てきた町の名前は、ここから往復1時間はかかる場所だった。
「じゃあ何でここいんの?女の家?」
「違う違う。………ほら、かわいー元カノの会社とここ割と近いでしょ?…会えるかなぁ〜…と」
明後日向きながら言われて、私は口をぽかんと開けた。
「………は、え。……なんで、」
「そりゃ…まだ好きたがらでしょ。あの時は仕事死ぬほど忙しかったけど今は落ち着いたし、最近になって。」
会える確率ほぼ0%でも信じて、毎日片道三十分かかるコンビニに来てた。
馬鹿馬鹿しすぎて、吹き出した。
「ぷっ……あははっ!馬鹿!何してんの!」
「純情を弄ばないでもらえますー?」
肩をばしばし叩きながら言っても、特に何も言わないから変わってないんだなと思う。
「で、そこで提案!」
「えー?」
笑い過ぎの涙を拭きながら顔を向けた。
「1つ目。タワマンに引っ越したから同棲しない?2つ目、うちの会社事務の子一人辞めちゃったから急募中。3つ目、付き合おう。」
徐々に私は笑顔を消した。
そして、5分以上しっかりと考えてから答えを出した。
「またあんたの彼女とは、最悪だなー」
笑って言いながら立ち上がった。
「お、乗り気じゃん。それじゃ早速帰ろっか」
あんたも追随して立ち上がって、紙コップを捨ててコンビニを出た。
「もう流石に家片付いてるよね?タワマンなんだから」
「……。」
「おいおいマジか」
「片付け手伝って♡」
「やだ〜♡」
「おねが〜い♡」
「あんたの彼女最悪だね。毎日片付け地獄」
「でもその最悪がお好きでしょ?」
「…はいはい、お好きだよ。あんたと付き合ったあの最悪の日からずっと!」