好きな色
早苗「聞いたか、ショーゴくん。我らが担任の好きな色はピンクだそうだ」
翔吾「へえ。なんつーか、意外だな」
早苗「だろう? しかし、ピンクがどうも好きな色らしい。いやあ、あの体格とあの顔でピンクが好きだとかちょっと意外通りこして驚きだよな。これは明日、担任に詳しい話を聞かねばならん。なので話すきっかけ作りとしてピンク色の何かを送ろうと思うのだが、何がいいだろう? 便箋では面白くないな。服は高いからダメだ。あとは……」
翔吾「早苗」
早苗「うん? これは前にあった光景と似ているぞ。さてはからかわれることに勘付いた担任が怖い顔してやってくるパターンだな」
翔吾「まあ合ってるが気を付けろ」
早苗「ふふ。僕はきちんと学習する人間でね。そんな訳で逃げさせて貰うよ!」
担任「残念だが、もういるんだよなあ。……お前の後ろに」
相合傘
早苗「僕らが相合傘を試そうと思ったら、体格に差がありすぎてどちらかが悲惨な目にあいそうだな」
翔吾「傘を大きくするにも限界があるしな」
早苗「そうだね。なんにしても身長と横幅の関係で、絶対どちらかが雨で濡れるだろう? それで風邪を引いてしまうのは僕にとって面白くない。と、言うわけで、日傘で相合傘をしてみるのはどうだ? これなら誰も濡れなくてすむぞ!」
翔吾「別にいいけどよ、それするならでかいパラソルか屋点傘用意しねえ?」
早苗「その心は?」
翔吾「パラソルなら海にいく。屋点傘なら茶を立てる」
早苗「……ショーゴくん。君、なんて面白そうなことを言ってるんだ! 海にいくのも茶を立てるのもいいな! 絶対楽しいやつだ!」
翔吾「気に入っていただけたようで何より」
一ノ瀬「……なあなあ。あいつらああ言ってるけど、それじゃあ相合傘じゃなくね?」
栢山「と、思うけど……だめだな。あいつらもう自分の世界に入ってやがる」
落下
早苗「文化祭でバンジージャンプ体験とかできたら面白そうじゃないか? 三階の渡り廊下からやればできそうな気がするんだが──」
翔吾「落ちるか壁に激突するかが関の山だからやめとけ」
─────
寝ている時にたまに感じる落下感は「ジャーキング」という名前があるそうですね。はじめて知りました。
未来
ショーゴくん、未来の話をしようじゃないか。
何? 先の事を考えても意味はない? それよりさっさと反省文を書け? まあ、まあ、待ちたまえ。ちゃんと反省文は書いているよ。ほら、ご覧。あと数行で三枚目の紙が終わる。確か原稿用紙三枚程度だったよな? もう終わりは見えてきているじゃないか。だから、これはほんの息抜き、箸休め程度の軽い話しなのさ。
話してもいいかい? ありがとう。君ならそう言ってくれると思っていた。そう、未来の話だよ。もしも、という可能性の話さ。
人はいつか、死ぬだろう。僕か君か、どちらかが先に死ぬはずだ。いや、死ぬ前に別れてしまう事もあるかもしれないな。
……そう怖い顔をしないでくれよ。これは別に悪い話じゃないんだ。
続けてもいいかい? うん、じゃあ続けよう。もしかしたらこの先、君となにかしらの理由で別れることがあるかもしれない。それが死別か、普通の別れかはわからない。喧嘩別れすることもあるかもしれないな。なんにせよどこか遠い未来で僕は君の前から姿を消すことがあるだろう。隣に君がいないなんてこともきっと起きるはずだ。
でも、もしそうなったとき、ふりかえって見たら、いい思い出だったって僕はなって欲しいんだ。僕がいなくとも君は僕を思い出して、ああいい日々を送ったなと面白かったと思って欲しい。
だから、そうだな……。あー、いや、なんだろう。言おうとしたけど、少しむず痒くなってきたな。
え? そういうのはいい? いや、いや、よくないよ。実に、よくない。そもそも君はさっきから僕の話しをおりすぎだぞ。もう少し、黙って聞くとかそういうことはできないのか?
いや、まあいい。要するにだな、僕は君にとって良き思い出だったとそう思って貰いたいんだ。綺麗にラッピングされた輝かしい青春の一ページに名をはせたいんだよ。それで、君にとってどうすれば僕と君との思い出が一番良い思い出になるか考えていて、何を言えばいいのか、思い付いたんだ。
と、言うわけで、目を瞑っていてくれ。僕が良いと言うまで開けるんじゃないぞ。
……って、なんで目を瞑ろうとしないんだよ。というかなんだよその顔は。君そんな顔できたのか。
いや、というかなんで君ちょっと乗り越えてこっち来ようとしているんだい? いや、待て。本当に待て。察しがいいのは助かるが私の心の準備をさせてからにしてくれたまえ! おい! 聞いているのか! いや、本当ショーゴくん、聞いて聞いて!
──ああ! もう! 君が待てないのはわかった! わかったから、これは近い未来までお預けだ! あばよ!
……って、追いかけて来るなー!
一年前
早苗「一年前か。僕らが何をしていたか覚えているかい?」
翔吾「担任とお前の鬼ごっこに付き合わされてさんざんだった」
早苗「懐かしいなあ。あの時は缶けりをして遊ぼうと自販機のゴミ箱を漁っていたんだったな」
翔吾「それでてめえが缶けって担任の背中にクリーンヒットして怒られたんだろうが」
早苗「ええ、違うよ。ける前に怒られて僕が先生が鬼だよと言ったあとに缶けって逃げたんだよ。僕は先生に当てていない」
翔吾「そうかよ。で、逃げてたら俺を見つけて一緒に逃げるぞ~! って引っ張って逃げたと」
早苗「君も缶けりに加わりたいと思ってね。なかなかよかっただろう?」
翔吾「よかねえよ。ただでさえ入学式に目ぇつけられてたのにあれからお前のお守り役押し付けられるようになったんだぞ」
早苗「ふふ。でも、君といると楽しいし飽きないからそれで良かったと僕は思ってるぞ」
翔吾「ふーん、そうか。ところでよ、お前今日は何しようとしてた?」
早苗「え、あーちょっと、野球部の子にバットを借りてホームランを打とうとしたらバットがすっぽぬけてしまった選手の物真似をしようとしてたところで──」
翔吾「ほー。そうか。バット返してこい」
────
学生の頃は一年前って、めちゃくちゃ懐かしいと思いながらこんなことしたよね~と楽しそうに語っていたのに、大人になってからの一年前はつい昨日の事じゃないのか? あれ? と思うことが増えてきました。