翔吾「『おうち時間でやりたいことはなんですか?』なんだこれ?」
早苗「あ、ショーゴくん。これはあれだ。所謂お題というやつだ。お題にそった内容のことを言うんだよ」
翔吾「ふーん」
早苗「しかしこれはあれだな。学生の僕らにはあまり関係ないものに見えるのだが……。でもまあ面白そうだからいいか」
翔吾「いいのか」
早苗「いいんだ。と、言うわけでおうち時間でやりたいことなんだが……。そうだな。本も読みたいしゲームもしたいし勉強をするのも手だし遊ぶのもいいな」
翔吾「ほとんどいつも通りじゃねえか」
早苗「正直おもしろければ日常でも非日常でも関係ないからね」
翔吾「そういうもんか」
早苗「そういうものさ。で、翔吾くんはおうち時間でやりたいことは何かな?」
翔吾「そうだな……お前が前に言っていた段ボール迷路を作ってみるとかだな」
早苗「お、いいね。暗い狭いゴールどこだって言いながら遊ぶのはおもしろそうだ」
翔吾「あとはあれだな。今の時期なら梅の実がとれるころだろ。実をとってきてジャムにするのもいいな」
早苗「なんだいそれ! 君がジャムをつくるだなんて実におもしろそうじゃないか! というか料理が出来ることに驚きだよ」
翔吾「弁当は自分で作ってるって前に言っただろうが。あとは……そうだな。お前がやりたがっていた歌詠みをするのもいいし、蘇を作ってみるのもいいな。それから……」
早苗「ショーゴくん、ストップ」
翔吾「なんだよ」
早苗「君さっきから僕がやりたいことを言ってないか? 君がやりたいことをいっていいんだぞ。そもそも、なんで僕らが同じ家にいる前提なんだい? 僕ら確かに一緒にいることが多いけど、住むところは別々だろう?」
翔吾「俺がやりたいことを言ったつもりなんだがな。けど、そうだな。お前がうちに来ないで一人でいるときにやりたいことは何かつったら……今は手紙をかくだな」
早苗「それ、誰宛?」
翔吾「お前」
早苗「さては君、からかっているな? というか、あれだろ。この前花火しようぜって学校に花火持ってきて二人で怒られたの、まだ根に持ってるだろ?」
────
作者のおうち時間でやりたいことは「布団を干す」です。
翔吾「お前は本当に出会った頃のままだな」
早苗「それって子供のままだってことかい?」
翔吾「ある意味ではそうかもな。ま、いいんじゃねえの」
早苗「いや、いや。納得いかないぞ! 僕……私はこれでもちゃんと成長しているだろう? ほら、こう、体つきとか」
翔吾「貧相なのには変わりないな」
早苗「ショーゴくんは他人を慮るという気持ちはないのか?」
翔吾「お前にはないな。てか、気を使ってほしいのかよ?」
早苗「……いや」
翔吾「ならいいだろ。それに、この関係でいられるなら子供のままでも悪くないだろ?」
いなくなっちまったあとで言うのもどうかしてるが……
「床の間に差し込む冬の朝焼けを 二人眺めたいくたびの朝」
今でもお前の背中を思い出すよ。最期までさすってくれと言っていたお前は、確かに俺を愛していたんだな。
──────
多分おそらく全力で、静かに愛を叫んでいたあいつに。
ショーゴくん見てくれ! モンシロチョウがとんでいるぞ! もう春なんだな。
うん? 梅の花が咲いているときも春だなって言ってたって? ああ言ったかもしれないな。なんせ梅は春の花だからな。
そういえば、梅の花の和歌はよく耳にするが、モンシロチョウの和歌は聞かないな。ちょっとショーゴくんそのスマホでモンシロチョウの和歌を検索してみてくれ。
え? いや? めんどくさい? 自分でしろ? いや。いや。君が調べてくれる事に意味があるのだよ。まず僕が調べたら君に聞かせることになる。それじゃあ普段通りだろう。だから今日は趣向を変えて、君からこんなのがあったよって聞きたくてだ──。
……な、なんで私が校門前の池でスマホを落とした事を君が知ってるんだ!
早苗「ショーゴくん。来年は僕らの卒業式だぞ。一年後の僕らはああなっているんだと思うと驚かないか?」
翔吾「どこに驚くところがあるんだよ?」
早苗「いや、いや。よく考えてみてくれたまえ。君と僕はおそらく別の大学へいくだろう? だとしたら、あの人たちみたいに『連絡するよ』とか『夏休みに会おうね』とかそんな話をしているんだよ。驚くべきことだと思わないか? この二年間ずっと一緒にいる僕らが、だ」
翔吾「別にこの二年間ずっと一緒だったわけじゃねえだろ。文理選択は違うしよ」
早苗「そうだけどそうじゃなくてだな……!」
翔吾「じゃあなんなんだよ?」
早苗「僕ら毎日連絡とか取り合わなかっただろう? 電話もあまりしないじゃないか。それなのに連絡を取り合って日にちを決めて、会う予定を立てて遊ぶようになるんだぞ? 変な感じがしないか?」
翔吾「……」
早苗「想像できたかい?」
翔吾「……言ってもいいか?」
早苗「うん?」
翔吾「なんかお前がうちに転がりこんで住んでるのしか想像できなかった」
早苗「……流石に私はそこまで神経図太くないぞ」
翔吾「かもな。でも、多分来るだろ。合鍵渡したら」
早苗「……そう、だね。そうかもしれない」
翔吾「ま、まず俺たちは一年後にきちんと卒業できるか心配したほうがいいだろう?」
早苗「それは、そうだね」