『こぼれたアイスクリーム』
――カランカラン、と古びた引き戸が開く音。
「おばちゃん!アイスクリーム1つ!」
まだ声変わりの途中の、高く弾む声が店の奥まで届く。
棚の影から、腰の曲がった“おばちゃん”が現れる。
「あいよ〜」
小さな手が指さすのは、冷凍ケースの中で眠る棒アイス。
おばちゃんは蓋を開け、キンと冷えた空気と一緒にアイスを差し出した。
少年はポケットから小銭を出す。チャラチャラと、金属の音。
それをおばちゃんが受け取った瞬間――
ポトリ。
手から滑り落ちたアイスが、真夏のアスファルトにぶつかる。
溶けかけた白がじわじわと黒い地面に広がり、
さっきまで涼しげだったその色が、急に儚く見えた。
少年は一瞬固まって、唇を噛む。
おばちゃんは、ふっと笑った。
「…もう一本、持ってきな」
冷凍ケースの蓋がまた開き、キンとした空気が流れ出す。
蝉の声が、やけにうるさく聞こえた。
8月、夏休みの真っ只中
この茹だるような暑さの中僕は清涼の地を見つけた。
君と、クリームソーダ。
君を見つけた。スカッとした風が僕の横を通って行った気がして少しヒンヤリした。喫茶店の窓から見える君に少し手を伸ばす。
窓越しの君は伏し目がちで良く似合うティースプーンを使ってクリームソーダを食べていた。
喫茶店のドアのベルを軽快に鳴らしながら清涼の地に入る。
君が見える席をとった。
君に気づかれたくて、少し目をやった。
雷が落ちたかのように目が合って、すぐ逸らした。
時計の針が静かな喫茶店にうるさく響く。
君の息遣いのひとつさえも聞こえてくる。
空気を切り裂くようにツンと鼻の奥に入ってきたコーヒーの香り。僕のテーブルに運ばれて、カランコロンと氷の音が心地よく聞こえる。
『8月、無口な君とクリームソーダ』
シンとした冷ややかな空気が心地いい。
暖かな毛布にくるまった私は「その時」を
じっ……と。待っている。
後3ヶ月か2ヶ月か、
もしかしたら1ヶ月かもしれない。
楽しみだなあ
みんな綺麗だよって言ってくれるかな
私はチューリップ。
まだ、「その時」でないことは分かっている
だが、私は「その時」ピンクの花弁をつけるらしい
「その時」の為に、長らく土に潜っている。
近くを通るミミズさんに挨拶をしたりしながら過ごしていた。
「いつもお世話になってまーす!」
返事はきたことないけど、たぶん伝わってる。
ちゃんと栄養満点の土になってる。
人間さん!「その時」……
いや「芽吹きのとき」までアナタも!
腐らずに待っていてね!
『芽吹きのとき』
『さぁ冒険だ』
大きな海!
でっかい船!
宝の山!!!!
「俺は大冒険家だーーー!!」
「ミナトー?ご飯よーー」
母ちゃんの声だ
もう、今いい所だったのに……
「砂場片してから来なさいねー」
母ちゃんの一声で、さっきまでキラキラしていたものは全て砂の山になってしまった。
オレが主人公の最高傑作が……
むー
「片付けない!!ご飯にする!!」
つまらない砂山はもう用済みだ。
「はーしょうがないなー……
ミナト、先にご飯食べよっか」
「うん!」
玄関では無く、リビングの大きい窓からサンダルを脱ぎ捨て家に入る。
正直びっくりした。母ちゃんがすんなり折れるなんて。今までだったらもう2、3回はラリーを続けていたところだ。
「今日焼きそばだ!うまそー」
うちの焼きそばはいつも塩。
磯の香りがするような気がする。
あ、見えてきた。
波打つ海。朝早くから出航する漁師。
そしてオレは、海賊。
乗ってた船は沈没したので勝手に漁師の船にのる。
うっひょー
こっそり乗ってることも忘れて潮風をたっぷりあげるんだ。
うん、塩の味がする。
「ご馳走様でした!外でてくるー!」
「また砂場ー?」
「うーん!」
もうサンダルは履き終わった。
母ちゃんの声も遠くに聞こえる
「飽きたら片付けしなさいよー」
まだ飽きないよ、いま海賊王を目指してる所なんだから。
タッタッタッ
無駄に足音を鳴らして走る
砂場に飛び込んで、
「さぁ、冒険だ!」
時間が止まれば、
怒られずにたくさんゲームが出来る
時間が止まれば、
2度寝し放題になる
時間が止まれば、
超人に魅せることが出来る
でも、本当に望んでいたのはそんなんじゃなく、
もっと単純なー
「あ、もうこんな時間。
ごめん今日塾あるから帰るね。」
大好きな人といる時間が増えたり、
「そっかじゃあね……」
この時間が終わって欲しくなかったり、、、
甘い贅沢な時間がずっと、
ずーっと、続いて欲しいだけだった。
『時間よ止まれ』