シンとした冷ややかな空気が心地いい。
暖かな毛布にくるまった私は「その時」を
じっ……と。待っている。
後3ヶ月か2ヶ月か、
もしかしたら1ヶ月かもしれない。
楽しみだなあ
みんな綺麗だよって言ってくれるかな
私はチューリップ。
まだ、「その時」でないことは分かっている
だが、私は「その時」ピンクの花弁をつけるらしい
「その時」の為に、長らく土に潜っている。
近くを通るミミズさんに挨拶をしたりしながら過ごしていた。
「いつもお世話になってまーす!」
返事はきたことないけど、たぶん伝わってる。
ちゃんと栄養満点の土になってる。
人間さん!「その時」……
いや「芽吹きのとき」までアナタも!
腐らずに待っていてね!
『芽吹きのとき』
『さぁ冒険だ』
大きな海!
でっかい船!
宝の山!!!!
「俺は大冒険家だーーー!!」
「ミナトー?ご飯よーー」
母ちゃんの声だ
もう、今いい所だったのに……
「砂場片してから来なさいねー」
母ちゃんの一声で、さっきまでキラキラしていたものは全て砂の山になってしまった。
オレが主人公の最高傑作が……
むー
「片付けない!!ご飯にする!!」
つまらない砂山はもう用済みだ。
「はーしょうがないなー……
ミナト、先にご飯食べよっか」
「うん!」
玄関では無く、リビングの大きい窓からサンダルを脱ぎ捨て家に入る。
正直びっくりした。母ちゃんがすんなり折れるなんて。今までだったらもう2、3回はラリーを続けていたところだ。
「今日焼きそばだ!うまそー」
うちの焼きそばはいつも塩。
磯の香りがするような気がする。
あ、見えてきた。
波打つ海。朝早くから出航する漁師。
そしてオレは、海賊。
乗ってた船は沈没したので勝手に漁師の船にのる。
うっひょー
こっそり乗ってることも忘れて潮風をたっぷりあげるんだ。
うん、塩の味がする。
「ご馳走様でした!外でてくるー!」
「また砂場ー?」
「うーん!」
もうサンダルは履き終わった。
母ちゃんの声も遠くに聞こえる
「飽きたら片付けしなさいよー」
まだ飽きないよ、いま海賊王を目指してる所なんだから。
タッタッタッ
無駄に足音を鳴らして走る
砂場に飛び込んで、
「さぁ、冒険だ!」
時間が止まれば、
怒られずにたくさんゲームが出来る
時間が止まれば、
2度寝し放題になる
時間が止まれば、
超人に魅せることが出来る
でも、本当に望んでいたのはそんなんじゃなく、
もっと単純なー
「あ、もうこんな時間。
ごめん今日塾あるから帰るね。」
大好きな人といる時間が増えたり、
「そっかじゃあね……」
この時間が終わって欲しくなかったり、、、
甘い贅沢な時間がずっと、
ずーっと、続いて欲しいだけだった。
『時間よ止まれ』
いつも、
朝起きて、スマホ見て、ご飯食べて、仕事して、スマホ見ながらご飯食べて、仕事して、スマホ、フロ、スマホ、ご飯、スマホ、入眠。
休日は、
朝起きないで、昼過ぎ起きて、スマホ、んでちょっと食べて、スマホ見て、寝る。
ある日思った「うわ、つまんねぇーーーーーーー」
ただYouTubeと、漫画アプリの往復
たまにX、たまにLINE。
「スマホゲームも飽きたしなぁーーーー」
最近ずっと心ここに在らず。
「生きてる感じしねぇや笑」
……スマホない時、何してたんやろな
もうココロは死んでいるきがした。
はあ……
『ココロ』
●「ねーお兄ちゃん知ってる?」
「なあに?」
●「お星様は天使様なんだよ!」
「そうなのか」
●「うん!だから、お星様に願って手をこうやって合わせたら願いが叶うんだよ!」
「おー願いが叶うんだな」
●「そうなの!でも……」
「どうした」
●「今日はお星様いない。雲が意地悪してるから」
「そうだなー」
●「うーん明日なら晴れてるかな?」
「どうだろうな、明日……手術頑張ったら、見えるかもな」
●「うん!僕頑張って病気治す!それでーお星様にお願いするの!」
「そうか。何願うんだ?」
●「うーん秘密。」
「どうしても?」
●「内緒の秘密ーー。しーだよ。」
「なんだそれ笑」
●「……お兄ちゃん」
「ん」
●「なんでもないよーだ。」
「はーもう寝るぞ笑」
●「うん!おやすみお兄ちゃん」
「……おやすみ」
翌朝
晴れやかな朝日が差し込む
病院の中は白すぎて眩しいくらい
弟が呼ばれて、手術に向かった。
……頑張れ。
●「おにーちゃーん!」
「あぁ、どうした?」
●「呼んでも返事しないから!僕、頑張るよ!」
「……ああ」
弟は、癌だ。
俺は馬鹿だから、詳しく話されても分からなかった
ただ癌であるらしい。
手術は成功するか、失敗するか、分からないらしい
でも、信じてる、きっと……って
……死ぬな、死ぬなよ。
「あのー手術、終わりましたよ?大丈夫ですか?」
「えっあ、大丈夫……です」
「君汗凄いね。大丈夫?」
「は、はい、えっと弟は……?」
「終わったよ、無事。」
「…………!!!!!」
「す、すぐ行きます!」
●「もういるよ、お兄ちゃん。」
「……!!よかっ……た。よかった、本当に」
●「大袈裟だよ、ほらお兄ちゃん立って」
「だっ、だってー……あーーーーよかったー!」
●「お兄ちゃんうるさい!ほら、僕もう布団に戻るから」
「ごめんなぁ、でも嬉しくてさーーーー泣!」
●「あっ今日お星様見えるよ」
「なんかお願いするか」
●「えーと、お兄ちゃんが僕なしでも生きていけますように」
「……へ?」
●「お兄ちゃん、今日すごい泣いてたし、一人暮らしとか心配。」
「だって」
●「だってじゃない!……お星様みたら僕のこと思い出して安心して!」
「……えーあーうん!」
●「へへっ」
「じゃあ俺は……」
この空に星が輝いている限り、俺と弟が、いつまでも、どこにいても、通じ合えますように。
●「お兄ちゃん、今なにお願いしたの?」
「へへっ内緒の秘密!」
『星に願って』