しろくま

Open App
9/1/2023, 2:15:46 PM

【開けないLINE】

好きだよって送ったら、すぐに冗談だろって返ってきた。
それきりLINEは開けなかった。
お前の周りには冗談で好きって言うやつばかりいるんだな。
気の効いたジョーク、洒落た会話、頭の回転の早いやつら。
それに比べたらおれなんて……。
みっともなくグズグズしてたらインターホンが鳴った。
画面に映る黒バケハ、被り方が変で全然似合ってない。
(俺も好きだよ)
インターホン越しにLINEの返事をするお前に、「冗談だろ」って答えながらロック解除した。

8/31/2023, 11:37:15 PM

【不完全な僕】

「パーフェクトな人はいないよ」
僕が好きな人は、僕が好きな声でそう言った。
「でも、お前は何でもできて完璧じゃん。パーフェクトじゃん」
仕事でも、プライベートでも、僕の好きな人が失敗したところを見たことない。
今だって鼻歌まじりに肉を焼いてる。
300g越えのステーキを、カロリーも気にせず食べようとしている僕の好きな人は、スタイルだって完璧だ。
しかも、こないだまで料理なんかサッパリ駄目だったくせに、僕の好きな人はやろうと思えばなんだってできる。
「俺のことをパーフェクトなんて思ってるの、世界中でオマエだけだぞ」
ステーキを皿に盛り付けながら、僕の好きな人は目を細めて笑う。
「足りないところをオマエが埋めてくれてるから、俺はなんとかやれてるだけ。俺はオマエのこと──さぁ、食べよ」
僕の好きな人が、何か大事なことを言った気がする。




8/31/2023, 10:09:34 AM


「きんもくせい」
高い鼻をこちらに向け、アイツはゆっくり息をする。
今日選んだ香水は金木犀。俺の肌から揮発した香水の分子が、アイツの嗅神経の末端に付着している。
それだけでなんか胸が高鳴る。
アイツの皮膚を通り抜け、隠された秘密に忍び込んだような感覚。
「いい匂いだね」
そう言い残し、アイツは帰って行った。
俺から離れても、俺から揮発した分子はアイツに微かな記憶を刻んでいる。