#お嬢と双子 (NL)
Side:Momiji Narumi
「楓~、このペンケース何色が好き??」
「うーん…青かな。椛は?」
「お〜!オレは赤派!どーする?買っちゃう?」
「あはは、決断早すぎ。ペンケースは入学式の前の日に買ったばかりだよね?」
「あ、そーだった!」
今日は高校に入学してから初めて過ごす休日。
オレと楓はいつも遊びに行くショッピングモールでいつものように双子デートを楽しんでいた。
オレたちは小さい頃から当たり前のようにものをお揃いにしていて、色違い、柄違い、シンメトリーなどなど、双子コーデはほぼ制覇してきた…と思う。
何でもいつも一緒で飽きないの?とかよく聞かれるけど、オレは全っっっ然飽きたことがない。
…って!オレが語りたいのはオレたちのことでは!!ない!!
オレが語りたいのは…最近出会ったちょっと不思議な先パイのことだ!
「…!?楓!楓…!!」
「…え、何?どうしたの椛?」
ちょうど語りたいと思った時に、なんと先パイ本人がオレたちの近くを歩き去っていった!なんてタイミングだ!!
その不思議な先パイはいつも無表情でクールなオーラを纏っていて、オレと楓よりもちょっとだけ、ほんの数センチだけ背が高い。
まさか休日に会えるなんて!
オレの好奇心センサーがビンビンに反応している!
「追いかけよう楓!!」
「えっ!?ちょっと待って椛、追いかけて何する気?」
「とにかくレッツゴーだ!!」
オレは慌てて文房具コーナーから出て、先パイの歩いていった方向へダッシュした。
先パイは長い廊下を歩いていった先のベンチに座って休憩しているようで、黒いショップバッグを膝の上で大事そうに抱えていた。
「先パ〜イ!こんにちは〜っ!」
「…あ…あなた方はあの時の」
「そっす!オレが成見(なるみ)椛で〜」
「俺が楓です、こんにちは先輩」
「ワタシは…帯刀雅です」
くっっっ!名前まで超クールだ!!
そして完全オフの先パイもすっげーキレイ!!
もはや楓がどれだけ止めようと関係ない。オレはオレの好奇心には逆らえない。
仲良くなりたい…!!
オレはその一心で、無表情を崩さない帯刀先パイに近づいてみることにした…が。
「…すみません、ワタシはこれから行きたいところがありますのでこのへんで失礼します」
「えっ!?先パイ!?」
「あーあ、椛ってば…」
オレのとっておきのトモダチ大作戦を実行に移そうとしたところで、帯刀先パイはまたそそくさと人混みの中へ消えていってしまった。
「もしかしてオレ…避けられてる!?ガビーン!」
「椛のそのノリが合わない…とか?帯刀先輩、見るからに騒ぎたいタイプじゃなさそうだし」
「そんなっっ!!オレのトモダチ大作戦が失敗したことは今までなかったのに!!!!」
「じゃあ、今度会った時にもうちょっと落ち着いて話せばいいんじゃない?」
「それだ!!」
…そうだな!今回は友達になりたいがあまり色々急ぎすぎた!!
どうやら帯刀先パイと仲良くなるには、大股一歩でいくよりも一歩一歩少しず〜つ距離を詰めていくほうがいいらしい。
だが!こんなことでめげるオレでは!ないっ!!
先パイの背中を見送ってから、オレと楓はカフェで作戦会議をすることにした。
「よ〜し、改めて作戦会議するぞーっ!この作戦は2人だけの秘密な!」
「言わない言わない。それと、椛さっきから全然落ち着けてないよ」
「マジ!?えーっ!?…落ち着くってどうやんの?」
「…俺の真似をするとか?」
「真似かぁ…え、ムズッ」
「何故??」
賑やかなカフェの中で、オレたちは結局夕方まで作戦会議をした。
語って語って語りまくって判明したことは、オレも楓も帯刀先輩に興味の矢印が向いていること。
でもそれも、オレたち2人だけの秘密。
【お題:2人だけの秘密】
◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・帯刀 雅 (おびなた みやび) 高2 お嬢様学校から転校してきた
・成見 椛 (なるみ もみじ) 高1 楓の双子の兄(一人称がオレなほう)
・成見 楓 (なるみ かえで) 高1 椛の双子の弟(一人称が俺なほう)
#想いを拗らせすぎた元暗殺者の話 (BL)
Side:Isaia Chiarugi
俺は首都郊外に住む、しがない花売りだ。
そんな俺だが…誰にも言えない秘密がある。
「なぁアロルド、いったいお前はどこをほっつき歩いてるんだ?」
「俺の電話番号をどうやって手に入れたんだ?悪いが俺はもう裏稼業から足を洗った身だ。依頼なら他の奴を当たってくれ」
「お、おい!組織裏切るってことはお前の命が…!」
「構わない。それもまた、俺が今まで手を血で汚してきた報いだ」
「考え直せ!あのボスがお前が生きてるってことに気づいたらマジで半殺しじゃ済まなくなるぞ!」
「それでもいい。…じゃあ、そろそろ切るぞ」
いつものように商品の花を手入れしていると、かつての仲間から約半年ぶりに電話がかかってきた。
…そう。俺は1年前まで、貴族の財産を狙っているとあるマフィアに「アロルド」の名で暗殺者として雇われていた。
報酬を得るためだけに、感情を捨てて何人もの貴族様を殺した。
そんな俺が雇い主を裏切って花売りになったのには、1人の男が関係している。
「やぁ…イザイア」
「…何故わざわざここに来たんだ、レノー」
「この1年間ずっと、君を探していたんだ。まさかここで花売りをしてるなんて知らなかった、やっと会えた…」
「…帰ってくれ…」
「どうして?何かあったの…?」
「帰れと言ってるんだ…!!」
莫大な財産を隠し持っていると噂のシャサーヌ侯爵家の次男、レノー・ブランシャール。
俺が5年前に任務で潜入した侯爵邸のパーティーで出会った、真面目で純粋で、なおかつ優しすぎる男。
俺が何も言わずに組織を離れたのは、暗殺者でありながらターゲットの彼を愛してしまったからだ。
シャサーヌ侯爵家殺害計画を完遂するためにわざわざあの手この手でレノーと仲良くなって、計画のためならばと彼のボディーガードにもなった。
…そこまでしたのに、俺は結局殺せなかった。レノーの胸に銃口を向けても、引き金にかけた指が震えた。
キスを求め合う中で彼の胸にナイフを突き刺すことだってできたはずなのに、出来なかった。
それで俺はターゲットに必要以上の感情を抱いてしまった自分に嫌気がさして、レノーの前からも姿を消した。
…なのに今、かつて愛した男が俺の目の前に立っている。
隙あらば何度も殺そうとした俺が、今更許されていいはずがない。
俺はぶっきらぼうな声でレノーを拒絶した。
「…帰らないよ、イザイア。君を連れて帰るまで」
「やめろ!俺を許そうとするな!!」
「でも君はあの日、僕と僕の家族を殺さなかったじゃないか。さぁ…一緒に来て。僕なら君を追っ手から守ってあげられる」
「…黙れよ…!」
俺だって本当は愛してるって言いたいし、もう二度と離さないって抱きしめて、またあの頃のようにキスを求め合いたい。
でも…それはもう無理だ。レノーは裏社会のうの字も知らない清廉潔白な侯爵家のお坊ちゃんで、俺は仕事で何人も人を殺している元暗殺者の庶民だから。
最初から俺に幸せになる資格なんて、なかったんだ。
俺は小さく舌打ちをして、手入れをしていた花へと視線を戻した。
「…君を愛してる気持ちは変わってないよ…イザイア」
「…」
「僕は君の目的を知ったあの日から君を許していたよ、だから…」
「…っ」
もうお前を抱くなんて無理なんだと拒絶したいのに、心も体もレノーのぬくもりを求めている。
こうして葛藤している今も、自分の心臓の鼓動がうるさすぎて嫌になる。
「…こんな俺に優しくしないでくれよ、頼むから…」
俺は花の手入れをしているふりをし続けながら、掠れた声で呟いた。
【お題:優しくしないで】
◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・イザイア・キアルージ (Isaia Chiarugi) 攻め 28歳 元暗殺者
・レノー・ブランシャール (Reynaud Blandchard) 受け 28歳 侯爵家の次男
#歌が繋いだ恋のはなし (NL)
Side:Nagi Tenzen
「もしもーし、静那ちゃん?起きてる?」
「…」
「ふふっ…おやおや、寝落ちしちゃったか」
リビングで2人で映画を見ていたら、いつの間にか静那ちゃんは寝落ちしていた。
初めて僕の家に遊びに来た時はガチガチに緊張していたのに、今ではこうして自分の家のようにくつろいでくれるようになって…ああもう、なんて可愛いんだ…!
「…そっか、もうこんな時間だもんね」
時刻は午前0時。明日は久しぶりに2人揃って休日を過ごせるからと、夜更かしする気満々だったんだっけ。
眠気に勝てなかった静那ちゃんの頭をそっと撫でてから、僕は彼女をお姫様抱っこしてベッドまで運んだ…が。
「…ん〜…」
「…!静那ちゃん?」
…予想外なことが起きた。
静那ちゃんをベッドに降ろそうとしたところで、彼女は目を覚ましてしまった。
寝起きのぽやぽやとした表情で僕を見上げる静那ちゃんの顔が、少しずつ赤くなっていくのが分かった。
「…!?な、凪くん!?ごめん、私寝てた…!?」
「電池が切れたみたいに寝落ちしてたよ。ごめんね、ベッドに寝かせようと思ったんだけど…」
「お、おおおおお姫様抱っこって…!ほあああ…!!」
同じことの繰り返しになりがちな僕の日常をカラフルに彩ってくれる、彼女の言葉や反応ひとつひとつが愛おしくてたまらない。
明らかにお姫様抱っこをされたことがないと分かる反応で、はぁ…もう、可愛すぎる…。
…なんて思っていたら、ちょっとだけイジワルがしたくなってきた。
「あ、あの…あの、凪くん…?」
「…えっと…静那ちゃんの反応が可愛すぎるから、もうちょっとこのままでいてもいいかな?」
「んえええ…!?」
【お題:カラフル】
◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・天善 凪 (てんぜん なぎ) 24歳 シンガーソングライター
・木田 静那 (きだ しずな) 24歳 花屋さん
#お嬢と双子 (NL)
Side:Miyabi Obinata
「うっわ見ろよあの子女子のくせに背高っ。壁かよ」
「…」
ええ、ええ、そんな言葉は数え切れないほど言われてきましたとも。
ワタシの身長は180cmですがまだ、これでもまだギリギリ部屋の入口で頭をぶつける危険性がない範囲なのです。
女子生徒の皆さんと歩いていると頭ひとつ分飛び抜けていることが多いワタシですけれども、これでも何かにぶつからないように神経を尖らせているのですよ。
…なんて言いたいことは山ほどあるけれど、ワタシの鉄の表情筋が相変わらず言うことを聞かないのでここは無視をすることにした。
「お〜い、無視かよ〜?」
「…申し訳ありませんが、急いでおりますので」
何とかこの状況から抜け出そうとしたけれど、残念ながらそれは失敗に終わった。
…何ということだ、この明らかにテンションの高さとノリが合わない殿方に囲まれてしまっては完全に「詰み」…。
しかしここで無闇に突き飛ばしてしまっては、ワタシが問題を起こしたと誤解されてしまう。
さて、どうしたものか…と、感情が渋滞している思考回路を必死に巡らせていた、そのときだった。
「こんちゃ〜っす!もぉ〜先パイここにいたんすね、探したっすよ〜!」
「こんにちは、先輩」
「…あの、あなた方はいったい…」
ワタシを間に挟むようにして、ワタシと目線の高さがほぼ同じの2人組が現れた。
彼らは顔立ちだけでは見分けるポイントが見つからない、とてもよく似た双子の兄弟だった。
今まで通っていたお嬢様学校から先日転校してきたばかりのワタシの頭の中は、さらに見知らぬ殿方が増えたことによりさらにパニック状態に陥った。
…マズい、これでさらに逃げられない状況に…。
「は?え?何?お前ら2人ともこのノッポなお嬢様と知り合いなわけ??」
「あははは!ノッポっつっても、オレらとほぼ変わんないしスタイル良くて超クールじゃないっすか!」
…うん?
今、ワタシが今まで言われてきた嫌味とは全く違う言葉が聞こえてきたような…?
ワタシのコンプレックスへの褒め言葉は聞き慣れなさすぎて、ワタシの無表情の下でさらに感情の渋滞が悪化し始めた。
「お、おう…でもさ?男と背丈変わんない女ってヤバくね?人気者なお前らでもさすがに引くだろ?」
「えぇ〜?それ、先パイが自分より身長高い女の子を見つけたから嫉妬してるってだけじゃないっすか?」
「男がみんな身長の低い女の子が好きだなんて思わないほうがいいですよ、先輩」
────────ズキュン。
何なのでしょう、この感情は。かつて味わったことないほどの心のむず痒さとほんの少しの自己肯定感が、ワタシの思考回路をついに停止させてしまった。
…爽やかイケメン、恐るべし…。
でも、彼らがワタシを少しずつ集団から引き離してくれたおかげで、ワタシが厄介な問題に巻き込まれずに済んだのは事実。
2人にお礼を言わなくては…。
「よ〜し、これでもう大丈夫っすよ先パイ!」
「…助けていただいてありがとうござ…あら?」
本当は微笑んでお礼を言いたかったのに、ワタシの表情筋はまた言うことを聞いてくれなかった。
そのうえ彼らはこの学校の人気者なようで、ワタシがお礼を言い切る前に廊下にできた女子生徒たちの人波に流されていってしまった。
「…」
…ワタシの身長を褒めてくれたのは彼らが初めてだった。
でも今ワタシの心臓が高鳴っているのはきっと、ワタシが褒められ慣れていないせいだ。
嗚呼…こんなにも風に乗ってこの果てなき空の彼方へ飛んでいけそうな、軽やかな気分になったのはいつぶりだろう?
そしてまたいつかなんて関係なくこれから頻繁にあの爽やかツインズがワタシに会いに来ることになろうとは、この時のワタシは想像もしていなかった。
【お題:風に乗って】
◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・帯刀 雅 (おびなた みやび) 高2 お嬢様学校から転校してきた
・成見 椛 (なるみ もみじ) 高1 楓の双子の兄(一人称がオレなほう)
・成見 楓 (なるみ かえで) 高1 椛の双子の弟(一人称が俺なほう)
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