日曜日の小さな礼拝堂
いつも日曜日の朝は祈りに来ている
子供達はポストカード付きのお菓子をもらう
今日も静かに私は牧師さんのお話を聞いている
お母さんの隣でうつらうつらとする女の子
何かメモをとっているおばあさん
窓から入るキラキラした朝日
牧師さんの静かな言葉
静かな雰囲気
今のゆっくりした時間が好きで
毎日あくせくしている私は
ここで心のリセットを行う
ホッとする場所である
すぐ前の席から反対を向いて
5歳ぐらいの栗色の髪をした男の子が私を見ている
お姉ちゃん
男の子に話しかけられた
なあに?
私は何気なく返事をする
お姉ちゃんは神様来たことある?
唐突な質問だ
無いよー? 君は?
聞いてみた
僕ね 今ね 神様が来たのー
男の子は普通のことのように言う
神様はなんか言ったりしたの?
私は男の子にヒソヒソと聞いてみる
神様はねー 僕に笑ってねって言ってた
男の子は普通に答える
良かったね
私はニコニコする男の子に微笑む
うん ありがとうお姉ちゃん
男の子は前に向き直る
(笑ってね かぁ いいな
私にもそんな時期あったのかな…)
私はぼうっとする
牧師さんも微笑んでいた
ミスチルのタガタメを聴きながら
俺は自分1人分の夕飯を作る
ゆでだこを一口大のぶつ切りにして
チューブのわさびと醤油
マヨネーズを合わせて
一口大に切ったアボカドと
一緒に混ぜた
ご飯を盛り
ハイボールを冷えたコップに注ぎ
さっと塩茹でした枝豆もある
俺は
平和ってのは
自分で作るもんだと思う
向こうから
やってくるのを待ってたら
俺はジジイになっちまうし
そんなに待つ気はさらさら無い
自分の平和は自分で作って
自分で守るもんだ
そんなこともできねえで
大人なんぞやってられっかよ
俺は自分を鼓舞するが
俺はいつから大人だっけかなって
年齢で言えば大人だけども
頭ん中はガキンチョ同然だ
まだまだ学びが足りんのだろう
飯が冷めるし
まずは食う
話はそれからだ
僕はこの
鳥かごのような
病院に入院して早一年になる
外に出ることは
院内の散歩ぐらいの生活だ
僕は少し頭の育ちが他の人よりも
遅いらしい
だけどお父さんとお母さんは
普通の学校の普通の学級で
僕を通わせて
育ててくれていた
僕はむずかしいことは分からないけど
先生がお父さんとお母さんに何かを言って
僕を鳥かごのような病院に
入れたんだと思う
今は漢字を毎日練習したり
パズルとか折り紙とか塗り絵が好きだ
特にナースのおばさんから
塗り絵を褒めてもらえる
才能があるって
僕は将来
画家になるかもしれないな
才能があるからだ
僕はたまに外に出て
座っているのが好きだ
風とか鳥の声が好きだ
夏は暑いけど
僕は先生に優秀な優等生と言われた
だから僕はそれを今日の日記にも書く
相部屋の子はとてもシャイで
いつも廊下を歩く
たまにテレビを見てる
僕はナースのおばさんに
また完成した塗り絵を見せるんだ
僕は外でいつか生活出来る人になって
病院の人を驚かせたい
そのために僕は今から漢字の練習をする
交換日記をしている
が しかし
大抵は
向こうが何も書かずに持っている割合が
高い
自分はすぐに書いてその日のうちに渡してしまう
が
向こうは
一週間くらい時間を要するらしい
何も書くことが浮かばないと言う
自分は
その友達に代わりに書いてやることはできない
なぜかというと交換日記だからだ
どうしたものだろうか
絵でも描いてみたら?
何もなしって書いてもいいよ
などと言ってみるものの
友達はうなだれている
何を悩むことがあるのだろうか
あることないことなんでも書きゃいい
そう思う自分がいけないのか
真面目に悩む友達にどう言葉をかけていいのだか
わからない
友達は
なんであなたはこう上手に書けるの?
と自分に時々訊く
自分では適当に書いてるだけなので
普通に書くよ
などとしか言えない
自分ももう少し言葉を考えて発言がしたいが
普通に書くよ
が精一杯だった
友達は今日も悩んでいるらしい
近所に猫にハーネスを着けて
散歩をさせるおばちゃんが居て
学校帰りの子供達がよく撫でて猫の相手をしているのを
私はスーパーの帰りに時々見かけて居た
微笑ましいけれど
猫にとっては子供達が多少なりとも
鬱陶しくないか と
要らない心配をしている
子供達が猫の相手をしてくれるわけではなく
猫さんが子供たちの相手をしてくれている
という方が正しい気がした
ある日
スーパーの買い物帰り
またハーネス猫さんが道端をトテトテ
歩いている
おばちゃんもゆっくり後ろから歩いている
猫さんが何かを見つけて
興味津々で立ち止まる
アスファルトの隙間からスミレの花が咲いている
スミレの花に鼻をくっつけて
ふんふんすると
猫さんは戯れ始めた
おばちゃんはそれを見るなり立ち止まって
私に挨拶をしてくれた
私も挨拶する
こんにちはー
猫ちゃんいつも可愛らしいですね
おばちゃんは
ええ
好き勝手歩くのよ〜
と微笑んでスミレに戯れる猫さんを優しい目で見る
猫さんはスミレに飽きたらしい
それじゃあ
また
お互い挨拶して
猫さんとおばちゃんと別れた
アスファルトに咲く花は
健気で可憐なイメージがある
私は猫さんのために
買ってある
かつお節とニボシを持って
明日辺りおばちゃんのところに遊びに行こうと思う
道端に咲く花のような猫さん
名前は
はなちゃんだ
明日を楽しみにして
今日の夕飯を作り始めた