【真夏の記憶】
これは
前回の方が良かったか
外回りの仕事をしてた頃
その日の訪問先は
気のいいおばあちゃんだった
汗だくで仕事をする俺に
「アイス出してやろう」
と声を掛けてくれた
「いえいえ、お構いなく」
と遠慮したものの
おばあちゃんはすでに冷凍庫を開けていた
「暑いからねぇ」と
おばあちゃん
「全部は多いかねぇ」
独り言のように呟きながら
取り出したモナカアイスを流しに運んだ
おばあちゃん
自分の分かな?
なんて思いながら作業をしていた
おばあちゃんはモナカアイスの袋を開け
中を取り出すと
さっきまでネギを刻んでいたまな板に乗せた
「ん?」
そのまま包丁をモナカアイスに乗せる
「ん?」
おばあちゃんは半分づつ食べるのかなぁ
モナカアイスは思ったより固かったらしく
おばあちゃんは
「う~ん、う~ん」と
頑張っている
「代わりましょうか?」
と声をかけようとすると
ドンッ
ゴロン
とうとうモナカアイスは真っ二つに
ちなみに
ドンッ
が真っ二つの音
ゴロンは
健闘虚しく
その片割れが流しに落ちた音
見ない方がいいかと
目を逸らし作業に集中してるフリ
おばあちゃんは
チラリとこちらを見たあと
無事だった片方を元の袋に入れ
冷凍庫に仕舞った
きっと暑さのせいだ
俺は何も見てないし
おばあちゃんは何も失敗してない
きっと俺が作業してる間に
滞りなくモナカアイスの半分を食べ
半分を冷凍庫に入れたのだ
ちょうど作業を終え
おばあちゃんにサインを貰おうとすると
その手に
ネギにまみれシットリと濡れた
モナカアイスの半分が握られていた
おばあちゃん
諦めきれなかったのかぁ
暑いもんなぁ
「はいどうぞ」
「ん?」
嘘だと言ってよバーニィ
暑さのせいか…な…
蝉の声鳴り響く
夏の午後
【こぼれたアイスクリーム】
当然欲張る
カップにそびえ立つ3色の塔
ピスタチオにチョコ
ちょっと悩んでミルク
絶妙な柔らかさに作られたアイスは
受け取った瞬間から
形を変え始め
駐車場に戻る頃には
表面張力の限界まで使って
今にもカップの縁から流れ出しそう
スプーンで救護に向かうも
時すでに遅し
カップを持った手が3色に染まる
致し方なし
欲に負けカップに余力を残さなかった
自業自得だ
落胆してる暇は無い
スプーンで液化した表面をすくいとりつつ
塔の根本
カップの表面も食べながら液だまりを作る
塔が倒れないように細心の注意を払いながら
まさかこんな事になるとは
何とか食べ終え
マーブル模様になった手を眺めながら
次は2色までにしとこうと思った
2色に染まった手を眺めるまでは
それなら3色だな
【やさしさなんて】
人によって
基準も価値観も違うから
やさしさもすれ違う事だってある
だけど
それが本当にやさしさからだったら
やっぱりそれは
受け取りたいと思う
【風を感じて】
会社の空調は
ビル全体の一括で
各フロアでは風量の切替しか出来ない
古い設備
温度の調節は出来ない中
体感に個人差のある
老若男女が集まってるから
なかなか全員が快適は難しい
我々には快適でも
事務所で長時間過ごす
お姉様方には寒く感じるようだ
事務所で仕事をしていると
寒いねぇと言いながら
空調装置の風量スイッチを次々とOFFにしていくお姉様方を
汗ばんだ腕に貼り付いた書類を剥がしながら眺める
毎年の光景
最初の頃は風量を弱めたり
影響無さそうな所だけ稼働させてみたりと
折り合いのつく所を模索してたが
終着点は全てOFFだった
万策尽き
数年前に買った
ネッククーラーと卓上扇風機
汗ばんだ皮膚に
そよ風が心地よい
【夢じゃない】
それは努力かと