君はいつも突然現れる。なんの兆候もなく。
視界の端に何かが映り、それが君だと気づくと途端にドキドキしてしまう。
君はとても逃げ足が早い。すぐ逃げていってしまう。
でも、こちらが頑張って追うと、積極的に来てくれることもある。君って本当に難しい。
私はもう、君のことなんて忘れたいのに。
ブラックキャップを部屋中に置いて、もう二度と君と出会わないことを願った。
#突然の君の訪問。
どしゃ降りの雨の中、てるてる坊主が佇んでいる。
小学校低学年くらいの大きさ。てるてる坊主にしては大きすぎるけど、でも、あれはてるてる坊主だ。
数秒後、突然踊り出した。 雨乞いや日和乞いの踊りならもう少しゆったりしたものだと思うのだけれど、あれが踊っているのは多分、ヒップホップ…?かなり激しめなダンスだった。すごく上手で、ついぼうっと見てしまった。
およそ5分ほど経った頃、あれはぴたりと止まった。そして、どこかへ歩いて行ってしまった。
あれは一体なんだったんだろう。よく分からないまま、とりあえず帰ろうと1歩踏み出して気づく。雨が止んでる。
傘をたたんで、僕はまた歩き出した。
#雨に佇む
「あの…席、動かしてもいいですか」
新幹線の前の席から顔を覗かせた女性に、
「どうぞ」
とは言った。言ったけど。
向かい合わせにされるとは思わないじゃん。
リクライニングだと思うじゃん。
「ありがとうございます」
席を回転させ、笑顔で座る女性に今更断ることもできない。
10分後。
「えー同い年なんだ!」
「やっぱり。話合うと思ってたのよ」
「いつそんなタイミングがあったよ」
「もうなんか、後ろ振り向いた瞬間にさ。ビビッときたの」
「恋じゃん。運命じゃん」
結構、楽しかった。いや、楽しすぎた。
こういう出会いも悪くないね。
普通は引かれるから辞めましょう。
#向かい合わせ
困ったらとりあえず海へ向かう。
方向感覚はからっきしだめだけど、海の方角だけは分かるから、見つけたらとりあえず帰る方向が分かって安心できる。
しんどくてもう今日は無理だっていう日も、静かに海辺を歩くだけで、波が辛さを少しずつさらっていってくれる。
#海へ
「集合写真撮るぞ。集まってー」
「えやばい。前髪しんでるんだけど」
「竹内君、鏡持ってるよね。貸してくれない?」
いいよ、と渡した手鏡は、許可していないのに次々と他の女子へ回されていった。
雲ひとつない青空の下、体育祭はスムーズにプログラムを終えた。僕のクラスは、学年一位。
ようやく返ってきた手鏡をちらりと見てから、僕もカメラの方へ視線を向けた。
レンズを見つめながら、あの日もこんな天気だったな、と、もう何度目か分からない回想をする。
今日、別れ話をされる。初めて彼女からデートに誘われたことやその様子から僕は十分察していた。だからせめて、逃すのは大きな魚なんだと思わせるために、気合を入れてビシッと決めた格好をした。
泣かないと心に決めていたけれど、視界がじんわりぼやけてきているのを感じた。
「さよならを言う前に、一つだけいい?」
慰めの言葉だったらいらない。それとももしかして、少しは僕のことを意識していたとでも言うのだろうか。
彼女が口に手を添えて踵を上げ、内緒話をするような姿勢になるので、僕も少し身体を傾ける。泣き出してしまわないように下唇を噛みながら。
「鼻毛、出てるよ」
#さよならを言う前に