「集合写真撮るぞ。集まってー」
「えやばい。前髪しんでるんだけど」
「竹内君、鏡持ってるよね。貸してくれない?」
いいよ、と渡した手鏡は、許可していないのに次々と他の女子へ回されていった。
雲ひとつない青空の下、体育祭はスムーズにプログラムを終えた。僕のクラスは、学年一位。
ようやく返ってきた手鏡をちらりと見てから、僕もカメラの方へ視線を向けた。
レンズを見つめながら、あの日もこんな天気だったな、と、もう何度目か分からない回想をする。
今日、別れ話をされる。初めて彼女からデートに誘われたことやその様子から僕は十分察していた。だからせめて、逃すのは大きな魚なんだと思わせるために、気合を入れてビシッと決めた格好をした。
泣かないと心に決めていたけれど、視界がじんわりぼやけてきているのを感じた。
「さよならを言う前に、一つだけいい?」
慰めの言葉だったらいらない。それとももしかして、少しは僕のことを意識していたとでも言うのだろうか。
彼女が口に手を添えて踵を上げ、内緒話をするような姿勢になるので、僕も少し身体を傾ける。泣き出してしまわないように下唇を噛みながら。
「鼻毛、出てるよ」
#さよならを言う前に
8/20/2024, 5:51:50 PM