困ったらとりあえず海へ向かう。
方向感覚はからっきしだめだけど、海の方角だけは分かるから、見つけたらとりあえず帰る方向が分かって安心できる。
しんどくてもう今日は無理だっていう日も、静かに海辺を歩くだけで、波が辛さを少しずつさらっていってくれる。
#海へ
「集合写真撮るぞ。集まってー」
「えやばい。前髪しんでるんだけど」
「竹内君、鏡持ってるよね。貸してくれない?」
いいよ、と渡した手鏡は、許可していないのに次々と他の女子へ回されていった。
雲ひとつない青空の下、体育祭はスムーズにプログラムを終えた。僕のクラスは、学年一位。
ようやく返ってきた手鏡をちらりと見てから、僕もカメラの方へ視線を向けた。
レンズを見つめながら、あの日もこんな天気だったな、と、もう何度目か分からない回想をする。
今日、別れ話をされる。初めて彼女からデートに誘われたことやその様子から僕は十分察していた。だからせめて、逃すのは大きな魚なんだと思わせるために、気合を入れてビシッと決めた格好をした。
泣かないと心に決めていたけれど、視界がじんわりぼやけてきているのを感じた。
「さよならを言う前に、一つだけいい?」
慰めの言葉だったらいらない。それとももしかして、少しは僕のことを意識していたとでも言うのだろうか。
彼女が口に手を添えて踵を上げ、内緒話をするような姿勢になるので、僕も少し身体を傾ける。泣き出してしまわないように下唇を噛みながら。
「鼻毛、出てるよ」
#さよならを言う前に
空模様を心境に例えることがよくあるけど、あれ、私にはあまり分からない。
気分が落ち込んでるときとか、なんだか明るい気持ちになれないときに、ふと見えた空が綺麗なグラデーションを見せてくれたら、私はそれだけで少し救われる。雨が降ってきて、なんだか懐かしい匂いがしたら、私の機嫌はそれだけで簡単に直っちゃうんだから。天気が心をそのまま映すなんて、そんなことできっこないの。
#空模様
誇らしく思うこと?素敵な友達がいることかな。可愛くて、かっこよくて、優しくて、素直で、友達想いな、大好きな友達。それもね、1人じゃないの。私の友達は、みんな素敵。
ふふ、羨ましいでしょう?
#誇らしさ
夜の海は、怖い。
ザアア、ザアア、その音だけがずっと響く。
今抱えている不安な気持ちがどんどん引き出されていく感覚になる。心がざわざわしてくる。
でも、しばらく聞いていると、なんだか落ち着いてくる。
引き出された不安な気持ちを、全部持っていってくれたみたいな。
#夜の海