うずき

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5/19/2024, 12:14:52 PM

《突然の別れ》

「今日も彼、かっこよかった…」
「はぁ…いい加減告白でもすれば?」

私―七穂は仕事終わりに同僚の萌夏と居酒屋で一杯やっていた。毎週金曜恒例行事となっているが最近はもっぱら私の恋バナばっかりだ。

「告白したいけどさぁ…あっちは私のことなんも知らないんだよ?」
「まあ、確かに同じ会社の人といえど急に『好きです!付き合ってください!』なんて言われたらどうすればいいか分かんないか」
「だから、何としてでも話すきっかけが欲しいの!」
「それをあたしに言われてもなぁ…七穂とあたし同じ課だからあたしも接点ないし」
「どうしよう〜」
「もういっそのこと当たって砕けろの精神で告白したら?七穂、結構顔良い方だし」
「ホント?そうやって言ってくれるの萌夏だけだよ〜」
そして私はビールをごくごくと飲み干す。

結局その日はいつも通り私と彼の関係を変える何かは思いつかず解散した。




「うーん。…頭痛い」
私は割と酒に強い方だが昨日は飲みすぎたかもしれない。だるい体をなんとか起こし朝の支度を始める。一人暮らしはこういう時にしんどい。
テキトーに朝ご飯を食べてぐうたら過ごそうかと思っていた。

―その時だった。

スマホがけたたましく鳴り響いた。ハッと画面を見る。知らない番号だった。とりあえず出てしまった。
『萌夏さんのご友人ですか?とりあえず〇〇病院に来て下さい…』
「は?え?どういうことですか?」
『今朝萌夏さんは事故に遭いました。現在重症で彼女の両親もここに向かっているようですが遠方のようで時間がかかるとのことでご友人であるあなたに電話をかけさせていただきました。』
「分かりました。すぐ行きます。」
気が動転して頭がおかしくなりそうだった。萌夏が事故って重症?あんなに昨日元気だったのに?

頭がぐるぐるのまんま私はタクシーを呼び病院へと急行した。


萌夏は寝ていた。起きていていつも通りであることを望んだがその希望はすぐに打ち砕かれた。ドラマでよく見るみたいな状態で…なにも言葉が思いつかなかった。

私が呆然としていると担当医と思わしき人が入室して来た。
「あの!萌夏は、助かるんですか?!助かりますよね?!」
「落ち着いてください。…萌夏さんはかなり危険な状態にあります。次の朝日を見れるか怪しいぐらいに。もちろん我々も最善を尽くしますが」
落ち着ける訳がなかった。何かを言おうとするが言うこともまとまらずただ口をパクパクさせているだけのようになってしまう。
「あ、あの!しばらくここに居ていいですか?萌夏が目を覚ました時1人だと悲しいと思うので」
「ぜひそうしてあげて下さい。」

…だが萌夏は目を覚まさなかった。日が傾き始めた頃容態が急変したのだ。
心電図が無情にもそのさまを語っていた。

私は久しぶりに泣いた。顔が涙と鼻水とでぐちゃぐちゃになっていたがそんなことは構わなかった。なんで萌夏が。彼女にはなんの罪もないのに。私が社会人になって始めてできた友達だったのに。

「ねえ…萌夏、目を、覚ましてよ。冗談だって言ってよ。こんな冗談なんも面白くないよ…」



…それからしばらく私は仕事を休んだ。何もする気が起きなかった。すると萌夏の両親から段ボールで何かが送られてきた。何かと思ってみて開けてみた。

映画のチケットだった。しかもペア。そして本、手紙。

手紙は私宛で、萌夏の字でこう書いてあった。
『お誕生日おめでとう!
この本読んで、映画誘って、彼を落としてきちゃいなよ!』
本をよく見ると恋愛テクニックみたいなことが書いてある。
「……っ」
もう前を向こうって、萌夏の分まで私が生きてやろうって、考え始めてた頃なのに、こんなのを見せられたらまた涙が…

「そういえばもうすぐ誕生日だったっけ。めっちゃ考えてくれてたんだ…
できれば萌夏から直接もらいたかったな…
こんなサプライズあんまりだよ…」

私、決めたよ、萌夏。あなたの分まで生きる。そして、あなたの分まで幸せになってやる。あの世で羨ましいと思わせてやる。…だから見守ってて。

5/18/2024, 11:36:09 AM

《恋物語》

―噂

案外馬鹿に出来ないものであり、気付いたら自分の今の立ち位置を危なくするものだ。

こんな風に思い始めたのはつい最近だが…

思い始めた原因は簡単だ。
恋愛。それだけだった。

僕には好きな人がいた。その子と僕はそれなりに仲が良かった。とはいっても学校の中での話であり、遊びに行くとかそんなことはなかった。

だから勇気を出して遊びに誘ってみた。もちろん楽しかった。だがそれがまずかった。

見事に噂の種となってしまったのだ。これ以降僕はその子に声をかけづらくなった。罪悪感も感じた。僕の行動のせいで…

それから僕とその子は疎遠になってしまった。というより僕が一方的に距離をおいた。

そうして僕の最初の―最後になるかもしれないが―恋物語は終わりを告げてしまった。

5/17/2024, 11:04:38 AM

《真夜中》



私は今夜もその場所に足を運んでいた。
「こんばんは。」
ここは一見するとバーのようだが実際は全然違う。

「こんばんは。今日も“仕事”しに来たの?」
彼女はここの店を運営している人だ。なかなかに顔も良く、性格もいい。私が男で“事情”さえ知らなければ付き合ってほしいくらいだ。

「今回はどんな“仕事”が入ってますかね…?」
私は近くの席に腰掛けながら尋ねる。
「今回もいつものヤツよ」
「…ホント、それしかないんですか?」
「違う“仕事”もあるわよ。けどあなたが適役なの。報酬もいいし」
「もしかして時間も関係してます?」
「関係してないとは言えないわね。やっぱりこの時間は丁度いい時間だからね。あなたにとって」

私の“仕事”

それは裏社会に出回る…簡単に言えば人を消す仕事だ。
それ故真夜中の方が色々都合がいい。

「真夜中って不思議な時間ですよね」
ふと、思ったことを口に出してみた。
「そうね〜何をやっても許されるような気がしてきちゃうし、全てが闇に葬られる、みたいな?」
ふふふと彼女は笑った。私もなんかその考えが分かる気がした。

「真夜中ってなんともいえない怪しさがありますよね。その怪しさが真夜中を魅力的なものにしてるんでしょうけど」そうして私は席を立ち、
「じゃあ“仕事”してきますね。」
「いってらっしゃ~い」

これからやることとは真逆のゆるい返答を聞きながら私は真夜中の街へとくりだした。

5/17/2024, 9:35:29 AM

私は彼と政略結婚をした。
私たち二人ともこのご時世に合わないと異議を唱えたが、全く効果がなく無理やり結婚させられた。

私たちの会話は事務的で…何も楽しくなかった。
思い描いていた結婚像はあの両親によって崩されてしまっていた。

父親の会社のグループのためと言えどこれは許せなかった。だが私が声をあげたところでたかが知れていた。

彼もだいたい同じ境遇だったようだがその会話はあまり出てこなかった。それもそのはず彼はずっと会社にいて滅多に帰ってこない。だから私は家事をずっと担当している。お金はあるようだからこのままでもいいんだろうが…つまらない。

時折このつまらなさはどうやったら解消されるか考えるのだが…今の関係をそのままにしなければならない。
私としてはこの関係を解消してもいいのだが父親が許してくれなかった。

やはり「愛」なのだろうか?結婚生活を長く楽しくするものは。

「愛があればなんでもできる?」

誰もいない部屋で私はふと疑問をつぶやいていた。




テーマ「愛があればなんでもできる?」