《真夜中》
私は今夜もその場所に足を運んでいた。
「こんばんは。」
ここは一見するとバーのようだが実際は全然違う。
「こんばんは。今日も“仕事”しに来たの?」
彼女はここの店を運営している人だ。なかなかに顔も良く、性格もいい。私が男で“事情”さえ知らなければ付き合ってほしいくらいだ。
「今回はどんな“仕事”が入ってますかね…?」
私は近くの席に腰掛けながら尋ねる。
「今回もいつものヤツよ」
「…ホント、それしかないんですか?」
「違う“仕事”もあるわよ。けどあなたが適役なの。報酬もいいし」
「もしかして時間も関係してます?」
「関係してないとは言えないわね。やっぱりこの時間は丁度いい時間だからね。あなたにとって」
私の“仕事”
それは裏社会に出回る…簡単に言えば人を消す仕事だ。
それ故真夜中の方が色々都合がいい。
「真夜中って不思議な時間ですよね」
ふと、思ったことを口に出してみた。
「そうね〜何をやっても許されるような気がしてきちゃうし、全てが闇に葬られる、みたいな?」
ふふふと彼女は笑った。私もなんかその考えが分かる気がした。
「真夜中ってなんともいえない怪しさがありますよね。その怪しさが真夜中を魅力的なものにしてるんでしょうけど」そうして私は席を立ち、
「じゃあ“仕事”してきますね。」
「いってらっしゃ~い」
これからやることとは真逆のゆるい返答を聞きながら私は真夜中の街へとくりだした。
5/17/2024, 11:04:38 AM