「俺には死など来ない。」
そういった時、確かに胸が痛かった。
永遠。響きは魅力的だが、呪いに過ぎない。俺は昔呪われたのだ。人でいう神という奴に。あいつらは本当にタチが悪い。遊びで俺の人生を滅茶苦茶にしたのだ。そのせいで俺は不老不死の体になった。最初は俺も喜んださ。だが、時が経つ事に気づいた。この呪いの残酷さを。俺の家族、友人、愛する人、全員死んだ。最初の頃は知人が死ぬたびに泣きまくった。だが、もう慣れた。感情は消え、痛みも感じなくなった。そして決めたのだ。もう誰も愛さないと。そのはずなのに。俺は過ちをまた犯そうとしていた。
目の前にいる彼女。先日、確かに俺は呪いを打ち明けた。気味悪がるのが普通だ。なのに彼女の目は、どこまでも澄んでいた。
「どうして俺の元に来た?」
「貴方が私に話をしてくれた時、泣きそうな顔をしていたから。」
当然の様に彼女は話した。
「俺は何千年も生き続けた化け物だぞ!怖くないのか?」
「全然。だって一番怖かったのは貴方のはずよ。貴方にとって私は一瞬の時を生きる子供でしかないわ。それでも貴方の側に居たいの。我儘かしら?」
そういった彼女の頬は夕日のように赤く、無邪気な表情をしていた。
「俺はもう誰も愛さない。愛したくない。だから君から離れた。君に嫌われたら楽になると思ったのに。」
「本当に貴方って人は。何千年も生きてるのに、そんな事も分らないのね。」
彼女は呆れた表情をして、俺を抱きしめた。
「貴方がどんな化け物でも、私は貴方が好きよ。」
その言葉を聞いた時、自然と泣いていたんだ。いつぶりだろう。悲しみじゃない、喜びだ。初めて認められた気がしたんだ。
あれから数十年。彼女は亡くなった。俺にとっては刹那のような日々だった。それでも、あの日のことも、彼女と過ごした日々も一生忘れない。俺の宝だから。そよ風が吹く。彼女が居るのかな?俺は空を見渡し、微笑んだ。
「適当でいいじゃん」
今までだって、これからだって。ただ命っていう時間を消費するだけだ。今がいいならそれでいい。ずっと思っていたはずなのに。なんで君はそんな顔をするんだよ。まるで怒っているような、悲しそうな、泣きそうな顔をする君。
今日で君が病で亡くなってちょうど1年だ。
「ねぇ、死ぬときって怖かった?」
返事は無い。
「1人は寂しくない?」
君は頷いた。
「そっか。そうだよね。」
僕はそう言って、仏花を墓の前に置いた。早く会いたい。この願いはいつ叶うのだろう。僕の人生の終着点はどこだろう。君のいない世界は冷たくて息ができないよ。それでも生きなくちゃ。辛くても、苦しくても。じゃないと君に怒られてしまう。僕は君を見て、下手くそに笑いながら言ったんだ。
「頑張って生きてみるよ。」
僕の言葉を聞いて君は笑ったんだ。僕が大好きなあの笑顔で。まるで夏の向日葵のような笑顔。君の名前のようだ。君は自分の名前が好きじゃないという。確かに浮いた名前だ。でもそんな名前を僕は愛おしく思っている。
「またすぐ来るよ。今度は沢山の話を持って。待っててね、ソレイユ。」
ソレイユ。和名:太陽