てん

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10/28/2023, 3:52:39 PM

【暗がりの中で】

手探りで何かを探す。
「違う。どこなの。」
暗闇の中、自分の声だけが響いていた。

ここは特別広い場所ではないようであった。
ただ、いくら探しても探し物は見つからず、心臓の音が大きくなっていくのを感じた。

ピタ……。
突然、何か水のようなものが足に触れたのを感じた。
先程まであったであろうか。
そう思いながらそれを辿った。

そこには微かに月明かりに照らされていた。
虚ろな目がそこにはあった。
死んでいるのか生きているのかもわからなかった。
辿っていた水は、赤く染まっていた。
そしてその水は虚ろな目の主へと繋がっていた。

「……っ……ぁ……。」
その時、声の出し方を忘れたかのように声が出せなかった。
心臓の音がさらに早まり、視界は虚ろな目から離せないでいた。
「どうして。なんで。」
突然、目の主が話し始めた。
「君が…なんで。」
何度もその言葉を聞く度に、自責の念が募っていった。
そしてまた暗がりへと視界が落ちていった。

次に目を開けた時、視界は明るかった。
「……私…のせい…。」
だが、その心に抱えたかつてのトラウマは、私を暗がりへと連れ去るのだ。

9/10/2023, 3:16:30 PM

【喪失感】

それを無くしたのはたった一度だけであった。
しかし、その喪失は長きにわたり私を苦しめた。

ただひとつを除けば、いつもの朝であった。
ぼーっと食事を取りながら、手元のスマホで今日の天気を確認する。
雨。その予報が目に入ったとき、私の中にあった喪失感が再び姿を現した。

失った時の光景が鮮明に脳裏に浮かんでくる。
あの時の声が、音が脳裏で反響し続ける。
スマホを机に置き、洗面台に向かう。
鏡にうつるやつれた自分を見ながら、それの喪失による影響をひとり感じていた。

「私ってこんなに笑うのが下手だっけ。」

8/3/2023, 5:08:43 PM

【目が覚めるまでに】

夢の中では何者にもなれる。
魔法を使ってみたり、空を飛んでみたりできる。
内容をコントロール出来ないのが残念だけど、それでもいい。
夢の中では何者にもなる。
今日は空を飛んで、昨日はなにかに追われてたような。
毎晩色々な僕になる。

嗚呼、目が覚めればそれはいつも同じ自分。
空を飛べなければ魔法も使えない。
夢のようにはならない。
どうか、夢の中だけでいい。色々な僕にならせてくれ。そんな自分を楽しませてくれ。目が覚めるまで。

7/12/2023, 3:36:52 AM

【1件のLINE】

アイコンにバッジがついている。
1件だけなのは明白だが、その赤い丸と白い数字は私の心をざわめかせる。
先程開いたばかりのLINEに再び手をかける。
こうして私は常にバッジのない状態を維持している。

7/5/2023, 11:43:28 AM

【星空】

雨が降った日の夜。
雲が流れ、星空が広がる。
「上ばかり見てたら転ぶよ。」
そう言われて下を見る。
そこにあった小さな水たまりにもまた、星空が広がっていた。

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