それは瞬きをする度に
星が溢れる様を幻視するほど
銀河のような
煌めきを孕む
どこまでも深い
宇宙を抱く瞳
「星が溢れる」
さよならの時が近付いている
真っ白な部屋、真っ白なシーツ
消毒液の香りと
死がもうすぐ側にいる人のにおい
もう、ベッドの力を借りても体を起こせない
シワシワの冷たい手を握って
握り返すその力に驚く
沢山の愛、沢山の時間
山のように降り積もった
大切な思い出の数々
寂しくて寂しくて、
家族みんなで、どうか長生きしてと泣いて
あなたには辛いだろう、延命を続けている
もう、本人の口からは聞けない同意
それでも顔を見つめれば
もうよく動かない筋肉を
めいいっぱい使って笑ってくれて
その力強い瞳で、見つめ返してくれる
強烈な程に、知性と年月を感じさせる
強いつよい瞳
そして、瞬きをゆっくりする
再びその眼が開いた時には
春の日の縁側みたいな、
あたたかくて、安らかな瞳に変わっていた
慈しむような、
大丈夫だから、そんな顔しないで、と
そう語り掛けてくるようなまなざし
瞳だけで全てを語れるようなあなた
私を慈しんで、無償の愛をくれたあなた
ずっとずっと見守っていてほしくて
どうかどうか居なくならないでほしくて
でももう、とっくに決めてたんだね
ぎゅうっと握った手を
強くつよく握りしめて
頬ずりして
笑顔で
またね、と
「安らかな瞳」
見られてる。
今日はテレワークの日で
机にノートPC置いて
ひたすらカタカタカタカタ。
ちょっとコーヒーでも飲もうかしら、って
席を立とうと横を見たら
見てる!見てる!!
ジト目のねこが!!!
集中していたものだから、
あなた、いつ来たのか知らないけども。
そんな親の仇みたいに私のPC睨まないでよ。
私を睨んでって言ってる訳でもないのよ。
まあまあ、それでもとりあえず、
コーヒー入れて戻りましょうか。
椅子に座って、コーヒー隣に置い、置い、
ねこ!!!
あなた、ずっと隣にいる気なの!?
コーヒーぐらい置かせてよ。
なんか臭いお湯飲んでる、って顔、しないで。
そう、場所を譲る気、全くないのね。
わかった、わかった。反対側に置きましょう。
ひと息ついて、ふー。
さてさて、続きをやりますか。
はてさてやっとひと区切り。
あちこちバキバキいってるみたい。
眼鏡を置いて、肩をぐるぐる、顔をもみもみ。
ちょっとコーヒー、飲もうかな。
もふっ
あら、そうだ、コーヒーは反対側に置いたのだった。
まだ居たのね、あなた。飽きないの?
ずーっと睨んでいるけれど、
ずっと、隣にいてくれる。
ずっと、隣で見ていてくれる。
優しいね、いいこだね、
うんとうーんと長生きしてね。
これが終わったら
一緒におやつでも食べようか。
あら、もう行くの?
え、そっちって、あ。
今じゃないの!おやつは今じゃないのよ!!
ああ、2回も言っちゃった。
こういう時だけ速いんだから。
特別だよ、一つだけね。
そうしたらまた、私のお仕事、隣で見ててね。
もう!一つだけって言ったでしょ!
「ずっと隣で」
もっと知りたいけど、
やっぱり怖くて知りたくない。
大事に思う関係であればあるほど、
無くしたくない人であればあるほど。
もっと知りたいけど、
でもちょっと、怖い。
窓の外を眺めている時、何を考えているのかしら。
今日の髪型、変に思われてなかったかな。
このあいだ貸した本、おもしろかった?
遊びに誘ったら、いいよって今日は言ってくれるかな。
それで、それで、ほんとは、本当は!
私のこと、どう、思っているのかな。
知りたい。
本当の本当を知りたい。
もっともっともっと!色んなあなたを知りたい!!
だけど私は臆病で、弱虫腰抜け意気地無し。
今日もやっぱり聞けないで、
ただちらちらと、あなたの横顔のぞき見てる。
「もっと知りたい」