「踊りませんか?」
そばにいてもいいですか…
近づいてもいいですか…
あなたの目を見て
ほんの少しだけ
温かな手に触れてもいいですか。
その手を私の胸に当てて
私の鼓動をきいてくれますか。
私の手をあなたの胸に当てて
鼓動を聞かせてくれますか。
もしも もしもだけど
私とあなたの鼓動が同じなら
ねえ今から
踊りませんか?
「踊りませんか?」
「巡り会えたら」
あなたは初めて会ったときから
そこにいて微笑んでいた。
純粋で尊い魂に気後れした私は
後退りしてあなたから離れた。
私達は見つめあい
言葉をかわさず
互いを想った
目に見えるだんだん小さくなってゆく
あなたの姿は
離れれば離れるほどに
心の中でだんだん大きくなってゆく
その姿を両手で抱きしめて
私は踵を返し
あなたのいない世界で生きることにした。
私がかつて忌み嫌ったこの世界を巡って
私がかつて畏れ避けたこの世界を歩いて
巡るのは
時でもなく
運命でもなく
私自身
巡って必ず会いに来る
あなたが私を待っているから
あなたの隣に立つために
あなたと伴に居るために
あなたに愛をみせるため
「巡り会えたら」
「奇跡をもう一度」
死んだはずだった。
脳腫瘍の診断を受けて
吸った息を吐けて
四秒生きられて安堵した。
それを繰り返した2年間
いつ息が止まってもいいように
毎日遺書を書き換えた。
それが今年の検査で
脳腫瘍が消えていたなんて
奇跡をもう一度だなんて
もしも、もう一度
信じられないことが
起こったとしたら、
それは私にとっては
腫瘍の復活なのだから
私はもうこの世にいない
死んだはずだった私は
いま こうして生きている。
奇跡はたった一度で充分すぎる祝福だ。
「奇跡をもう一度」
「きっと明日も」
今日 できなかったことは
きっと明日も同じ
今日 わからなかったことは
きっと明日も同じ
今日 言えなかったことは
きっと明日も同じ
だけど今日 会えなくても
明日は私が会いに行く
私が起こすムーブメントは
「きっと明日も」という言葉をも
くだいて進む あなたのもとへ。
「静寂に包まれた部屋」
ついさっきまでの
LINEのやりとり
「今のどういう意味?」
「それはね…」
「あぁ、そうかわかった。ところで…」
「あるよね、そういうこと。以前にもね…」
他愛ないやり取りに
あなたも笑顔であることがわかるし
私も胸が温かくなっていく。
「じゃあ、そろそろ」
「うん。おやすみ」
「おやすみなさい」
切り難い、終り難い、去り難い。
部屋の明かりを落とし
スマホを暗転させ
そっと頬に当てる
さっきまで側にいた あなたの温もり
そしてここは
「静寂に包まれた部屋」