「静寂に包まれた部屋」
ついさっきまでの
LINEのやりとり
「今のどういう意味?」
「それはね…」
「あぁ、そうかわかった。ところで…」
「あるよね、そういうこと。以前にもね…」
他愛ないやり取りに
あなたも笑顔であることがわかるし
私も胸が温かくなっていく。
「じゃあ、そろそろ」
「うん。おやすみ」
「おやすみなさい」
切り難い、終り難い、去り難い。
部屋の明かりを落とし
スマホを暗転させ
そっと頬に当てる
さっきまで側にいた あなたの温もり
そしてここは
「静寂に包まれた部屋」
「別れ際に」
散々喋ったあとで
静かになった
あなたとの帰り道
先をのんびり歩くあなたの後ろ姿
空に満月ののぼる頃
真っ白に輝く月に
あなたの姿が照らされて
(ほら、今だよ)と月が云う
つぶやくように
できれば聞こえませんようにと
半ば祈るように
「あの、明日も……」
消え入るように口にすれば
その声に振り返るあなた
まるで決まっていたかのように
まるであたりまえのように
笑顔であなたってば
「うん。会おうか」
一番大事でいちばん大切な言葉は
別れ際にしか口にできない
「別れ際」
「通り雨」
あなたと別れて
反対方向に歩き出す。
まだ一緒にいたかった
ずっと一緒に生きていたかった。
幸せに どうぞ。
振り返りたい気持ちを
息を止めて堪えて
こらえて、視界がどんどんにじむ
どうか、雨よ
あなたに知られないよう
私の頬にだけ
あなたに気づかれないよう
私の頬にだけ
どうか、雨よ。
どうか、今だけ。
「通り雨」
「声が聞こえる」
目をこらせば
耳をすませば
わたしのからだ 自分を手放せば
ただ ただ 地球に寄せてみれば
木々の聲の
地中で眠る蝉の蛹の
鳴かぬ蛍の 怯える蛇の
じっとこちらを見る梟の
見上げれば 地球を見守る星の
私を凍えさせる月の
瞬きをして涙を流す星の
胸に刺さる明日の太陽の
すべての 声が聞こえる
聲が きこえる
「声が聞こえる」
「大事にしたい」
ほんとうにだいじにしたいものは
だれにもいわない
こころのなかだけで くりかえす
それだけでほんわりと灯りを含み
それだけでじんわりと私を温める
わたしひとりの秘密
そうでないと
こわれてしまいそうだから
「大事にしたい」