maria

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8/6/2023, 12:16:53 PM

「太陽」


太陽に背を向けても
太陽は見逃してくれない。

曇りの日ですら、
厚い雨雲の嵐の日ですら
「昼間」は明るくて
逃げようがない。

夏は恨めしく思われ
冬は恋しく思われる。

しかしながら
人々の勝手な幻想に左右されず
とりまきの惑星のおろおろにすら左右されず
太陽は46億年
このほしを従えて
暗い宇宙に堂々たる姿で君臨する。


昨今
暑いだのなんだの
人類が不平を漏らすなど
畏れ多いだろう。


           「太陽」


8/5/2023, 11:22:15 AM

「鐘の音」


まだ解ききれていないテストのときは
無情に感じてしまう恨めしい鐘の音


苦手な科目のときには
救いに感じてしまう有り難い鐘の音


方向の違うあなたと帰る電車のホーム
「間もなく電車が到着します」の
アナウンスと共に名残惜しい鐘の音

キラキラと輝くクリスマスの街に
寒さに肩をすぼめながら
握り合う手に ふしぎと心が温かい
光の中のふたりのBGMも鐘の音


皆の笑顔と歓声の中
あなたの隣で白いドレスを着て微笑む私を
これまでとこれからを祝福する鐘の音


1年の終わりのその夜に
一緒にいられる幸せをかみしめ
感謝と祈りとともに聴く鐘の音

そしておそらく
わたしが最期の息を吐き
線香の煙とともに空に昇る日も
労いとともに私を導く鐘の音


ゆっくりとゆっくりと
アルバムを埋めてゆく
鐘の音



         「鐘の音」

8/4/2023, 2:17:11 PM

「つまらないことでも」

庭に遊びに来た仔猫が
小さな胸を上下させて眠っている。

蜘蛛の巣にかかった蝶が
もがいて羽ばたいて逃げていった

門を出ようとすると
朝顔のツルが昨日よりものびている

小学生が笑い合いながら
学校のプールへ楽しそうに走る

信号待ちをすると
ヒマワリがこちらを向いている。

空の色と雲の色がとてもきれいな日
飛行機雲がもう一筆 すぅっと足してゆく

行き交う対向車から
好きな曲がかすかに聞こえた


そんな 取るに足らないことを
そんな つまらないことでも

ねえねえきいて と
伝えたくなる

なんだか周りの全てが尊くて
煌めいてみえる

それが 恋



     「つまらないことでも」


8/3/2023, 1:31:35 PM

「目が覚めるまでに」


ねこは役に立つから
かわいがっているのではない。

ただわたしが愛したいから
ねこをなで、ごはんを用意し
丸くなって眠るさまをながめる幸福。

熱帯魚は役に立つから
かわいがっているのではない。

ただわたしが愛したいから
水質に気を配り、仲良く泳げているか
ひらひらと踊る群舞をながめる幸福。

犬は役に立つから
かわいがっているのではない。

ただわたしが愛したいから
ものを取ってこなくても、
真っ直ぐに私を見つめる瞳を
私も真っ直ぐに見つめ返す幸福。


なのに
あなたはなぜ

「自分は君の力になれない」

などと哀しげにいうの?

どうして人間だけが
「役に立つから」「役に立てないから」
というくくりで去ろうとするの。

いい加減に目を覚まして。
あなたが起きたら こういうの

ただわたしが愛したいから。
それだけで充分でしょう?
あなたがいるだけで それだけで幸福。


     「目が覚めるまでに」




8/2/2023, 1:09:38 PM

「病室」


私の枕とシーツは
若草色にして欲しい。

首を傾けるだけで
視線を向けるだけで
草原に寝転んでいるような
そんな気分になれるように。

それとも淡いピンク色にして欲しい。

きっと花畑に寝転んでいるような
そんな気分になれるから。

海の青はやめて。
私が目覚めることがなかった時
私の瞳を閉じた最期の顔と
青い海の色があなたの脳裏に残ったら
あなたはきっと海をみるたびに
私のことを思い出して泣くでしょう。
世界中の海を見るたびに
あなたが悲しい思いをするのなど
耐えられるものではないから。



だからね  おねがいよ

私のこの病室の
この白いシーツと枕を
変えてほしいの。



   私のさいごのおねがい

           「病室」

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