「明日、もし晴れたら」
あした もし 晴れていたら
マリーゴールドの花束を持って
君に会いに行こう。
君の笑顔がオレンジ色の花に囲まれて
キラキラと輝くだろう。
あした もし 曇っていたら
かすみ草の大きな花束を持って
君に会いに行こう。
そよ風に揺れる小さな妖精たちは
君のふわふわの髪にとても似合うだろう。
あした もし
雨が降っていたら
青いリンドウを1輪だけ持って
君に会いに行こう。
君はまつげを伏せて
リンドウを見つめ
深い蒼だね、というだろう。
あした もし晴れたら
いや あした もし
どんな天気であっても
僕はきみに会いに行こう。
花束に
小さな指輪の箱を忍ばせて。
「明日、もし晴れたら」
「だから、一人でいたい」
あさから なんだか
いろんなことが かみ合わなくて
スマホ見ながらコーヒー飲もうとして
お気に入りの服にこぼしたり
玄関を出ようとして
ドアに指を挟んだり
車にカナブンがくっついてて
すぐに出られなかったり
急ぐ時に限って赤信号に全部引っ掛かったり
上司の機嫌が悪くて
八つ当たりされて嫌味を言われたり。
昼休みになってしたことは
あなたの連絡先を消すこと
こんな日はきっと恨み言や愚痴を言って
あなたに嫌な思いをさせてしまう。
声を聞きたいけど、
不満をぶちまけたいけど、
そうしたくても
そうできないように
電話番号もメールアドレスも
会話の履歴も何もかも
きれいに消す。
もう何度目かの私の儀式。
あなたの今日を不愉快にして
あなたの表情を曇らせるくらいなら
私は口を閉じて 耳をふさいで
自分独りでひっそりと
水の中の酸素を探すように
小さく浅く呼吸する。
だからこんな日は どうか放っておいて。
「だから、一人でいたい」
「澄んだ瞳」
仔犬や赤ん坊は
まっすぐに
「すき!」という表情で
私をみつめてくる。
彼らはひとことも 話さない。
それなのにこんなにも
心に染み入るのだから
澄んだ瞳というちからは
とてつもなく尊い
あぁ私も ことばに頼ることなく
眼差しだけで
愛を伝えることができたなら。
「澄んだ瞳」
「嵐が来ようとも」
それはそれは例えようもないほど
紛れもなく 天地神明に誓って
大ファンではあるけれど
櫻井くん、相葉くん、二宮くん、
松本くん、大野くん の五人が
いま突然 私の眼の前に現れたとしても
わたしは表情一つ変えないだろう。
私は彼らを知っているが
彼らは私を知らないから。
例えば私が街を歩いていて
知らない人から「キャーキャー」言われ
指さされたと想像したら
ゾッとするし、不愉快でしかないから。
大好きな人たちには
不愉快な思いはさせたくない。
私のほんとうの愛は
彼らの幸せを願うこと。
だから たとえ
「嵐が来ようとも」
私の心は穏やかなままである。
聖母マリアのように。
「お祭り」
かぜにのって
ふえのねがきこえる
空を見上げるとひときわ明るい南の空
カラコロと下駄をはいて
金魚の絵柄の浴衣を着て
明るい方へと誘われるがまま
ひとり、またひとりと
同じ方へとふえてゆく。
今夜はお祭り。
みな一様に 頬を紅潮させて
色とりどりの水風船や
ふわふわと、柱にくくられた
綿あめをながめ
三軒となりの怖いお爺さんも
向かい角の口うるさいおばさんも
今夜はみんなニコニコしてる。
賑やかな音楽と大きなたいこ、
大人も子どもも騒いで輪になって踊る。
これは なに?
私はなんだか怖くなって
その場から逃げ出した。
一気に音楽が消え、虫の声と
星あかりの夏の夜。
ムッとする暑さに
時折ふわりと風が吹く。
これが私のすむ世界。
遠くの国ではいくさが起こり、
隣の国では水害で人々が命を落とす。
明るさにクラクラした眼が
ようやく現実の暗さに馴染む頃
わたしは 部屋への道を辿りながら
ほぅと息を吐く。
現実を直視させたくない時、
不都合な真実を隠したい時、
大人たちは祭りを開催する。
この世が素晴らしく煌めいているかのように
大きな大きな花火を打ち上げる。
人々を夢のなかに閉じ込めるために。
だから 賑やかであればあるほど
わたしはお祭りが おそろしい。
「お祭り」