息を吸って 2秒後の未来
息を吐いて 4秒後の未来
息を吸って 6秒後の未来
息を吐いて 8秒後の未来
呼吸をするたび 私は未来をつくる
呼吸をするたび 私は未来をいきる
今日聴いたメロディーが
どれほど心を慰めてくれたことか
花弁に残る朝露の虹が
どれほど私を虜にしたか
塀の上の痩せた野良猫の姿が
どれほど哀しかったことか
今夜の月がどれほど私に
雄弁に物語を聞かせたか
私だけにしか見えぬ
ビロードの宝石箱の中にある
小さな丸い真珠のような
脆くて壊れやすい、
ふぃとなくなってしまいそうな
この危うい想いを
そっと手にとって掌に包む
一年後、もしくは五年後
十年後、それとも百年後
私の身体が灰になり塵となって
この世界を形作るための
何物でもなくなったとき、
今日のこの日の 私の見た景色を
あなたがみてくれたなら
一年後だろうが、明日だろうが
それは同じ価値がある。
息を吸って 2秒後の未来
息を吐くと ほら もう4秒後の未来
あなたにも みてほしい
いま作られてゆく この未来
お題「一年後」
その日
好きになった人の名が 直人だったから
なおと という音の響きが特別になった。
直人が好きなバンドがバンプだったから
バンプの曲が特別になった。
直人を産み育ててくれたお母さんの名前が由紀子だったから
ゆきこ という響きが特別になった。
直人のお祖母ちゃんが優しいときいたから
街ですれ違うお年寄りが特別になった。
直人が子どもが好きだと言ったから
煩いと思っていた近所の幼稚園も
保育園も 小学校も私の特別になった。
すれ違う知らないおじさんも
イヤホンしてるおにいさんも
忙しそうな自転車のおばさんも
みんな みんな
きっと誰かの特別な存在
初恋の日
私はこのほしをはじめて
いとしいと思うようになった。
お題「初恋の日」
明日 世界は終わらない。
一ヶ月後にだって世界は終わらない
世界が終わることはない。
明日も来月も来年も
世界が終わることはない。
ただし
今かもしれないし、
今夜かもしれない。
夜中なのかもしれないし、
明日かもしれないけれど
あなただけが
いずれ世界から
終わらせられていることは確定
あなたがあなたの世界を終わらせるだけ
願うことはないけれど
おやすみなさい
覚めない夢を
お題「明日世界がなくなるとしたら
何を願おう」
君の好きなものは恐竜
アンキロサウルス
スティラコサウルス
プロトケラトプス に
マイアサウラ
次から次に出てくる
草食恐竜の名前
ベッドの中で読む絵本のせい
おかげで私の夢に出てくるものは
はるか昔のそのまた昔
ドスンドスンと歩くもの
草を食むもの、眠るもの
草食恐竜の群ればかり
彼らは化石になってるのよね?
君の好きなものはカブトムシ
森で見つけた母が産んだ
19個もの白い卵
大事に大事に育て上げ
秋から冬越し
スクスク育った親無し子らは
スヤスヤ夢見て土中で眠る。
そろそろ蛹の準備に入る頃
蛹になったら数週間
夏にはカブトムシになるという
まだまだ未来のはなしでしょ?
君と出逢ってから、私ときたら
太古の昔から未来まで
時間旅行に駆り出され
振り回されてる
気がするけれど
それが嬉しい
ありがとう
我が子へ
お題「君と出逢ってから、私は」
私の住むこの世界には
大地なぞありはしない
人一人分の
ちょうど棺桶ほどのスペースだけ
そこに仰向けに寝転ぶとみえるのは
棺桶の形をした四角い蒼空
遠くから聞こえてくるのは
生ある世界でいきる雲雀の唄
雲が流れる?
いいえ、流れているのはこのわたし
雲はじっとそこにいて
流れていくわたしをみているだけ
唄もかわらずそこにいて
私の呼吸をたしかめる
まだいきているのか と
私が呼吸をあきらめたなら
雲雀はやがて憐れむように
私への鎮魂曲をうたいだすだろう
そのうたを聴きたいような
聴きたくないような
棺桶の中から両腕をあげ
青空に向かって 咆哮をあげる
身体中を血液が巡りだす
流れてはいくが
流されてはならない
それがこの世界で いきるということ
お題「大地に寝転び雲が流れる」