二刀流のハラスメントを受けて私の心はズタズタになった。
声をあげたくてもあげられない。
それが非正規雇用の身の定めなのか?
私は逃げるように職場を去った。
一度は死を覚悟したものの、
それでは私がアイツらに負けを認めると思った。
だから、一心発起して再就職を目指して職安に通った
しかし同じ事務職の求人を求めても、逆にない。
あれとすれば医療事務の求人。
私には資格を取得するお金がなかった。
両親とも親戚とも今は連絡を取り合っていない。
頼るところがなくて貯金を切り崩して生活している。
いったん就職を諦めてバイトをすることを決めたが
私の技量を発揮できそうなところがない。
追い風はいつまでも続くだろう。
初日の出の写真を見せてくれた君の目は輝いている。
病気で入院している私に
君は少しでも元気づけようとしてくれてる。
「退院したら一緒に見ようね」
そのひと言が嬉しいはずなのに
ズーンと生理痛のように痛かった。
手術をすれば治るって主治医の先生は言うけれど
手術をしたらデートに行けるって君は、はしゃぐけど
もしかしたらを予想して怖くなる。
でも、君はこう言った。
「失敗すると不安になると事故は起きるかもだから
俺はあの先生を信じてる。
愛想がなくて嫌なとこもあるけど、
ベストな手術をしてくれるって信じてる。
ミユのラッキーカラーはサーモンピンクだから
このマニキュアを塗って手術に臨んで?
初日の出みたいに綺麗だし」
って私と君は笑い合った。
そして、私より器用な君が塗ってくれたマニキュアを
私は窓の外の水色の空に飾った。
「私に初日の出が現れた記念日は
ハル自身の特別な夢が叶う記念日でもあるように
祈っているからね!」
そう言って私は君とハグをした。
春生まれの私の今年の誕生日プレゼントは
指先に桜色のアクセントが付いたえんじ色の手袋。
「春なのに」と思いつつも冬が恋しくなった。
そしていま。
毎日、自転車に乗って勤め先に向かう途中。
冷たい風による攻撃から手を守ってくれるあの手袋は
春の日向ぼっこをして
ずっとこの日を待っていたかのように暖かい。
指先に咲く桜のアクセントを見つめるたびに
心に一足早く春がきたようで
冷たくて重たい朝も少し、軽くなる気がする。
毎年、冬至の日になると実家ではゆず湯に入った。
風呂の中にゆずの香りが漂って
「風邪をひかなないように」の言い伝えのご利益を
感じられる気がしていた。
一人暮らしを始めて今年が初めての冬至を迎える。
今年はゆずを買わずに
近所のスーパーで買ったゆず風味のカップ焼きそばで
ゆずの香りを楽しもう。
私の地元は家がぽつんぽつんとまばら点在していて
その家々に囲まれるように田園が広がっている。
冬でも晴天の日は見晴らしがいい。
空が大きくて鳥も悠々とのびのびと飛んでいる。
その青い空に落書きをするように
飛行機が雲を描きながら通り過ぎる。
「明日は雨が降るだろう」
いつかの誰かがそう言ったのを思い出す。
もしそうならこの『絵』を切り取ろうか。
明日になればわかるし、未来の天気予報になる。
私は今日もまた何気ない空をスマホで撮る。