当時付き合っていた彼氏の家の窓からは
棚田が広がっていた。
「昔、俺あの山の傾斜でよく転がったよ」
「えーっ!よくそれを平気で言えるね、逆にすごい」
「まあ、今は普通に生きてるし」
彼の無邪気なその笑顔に、
私は母性を少しくすぐられた気がした。
転んでも泣かない強い幼子のようで誇らしく思った。
もし、今の旦那との間に子供が生まれたら
あの窓から見た景色のような田舎に引っ越そうか。
自然豊かな暮らしを幼い頃に経験させてあげたい。
商業施設は近くにないし、危険が多いのは承知してる。
でも、のびのびと育ってほしい。
しがらみのない場所で経験したことを、
いつか何かで表現できる子になってほしいから。
『言葉』とは形が無いものだと思ってた
文字に表され
音に飾られ
声によって支配される
そんな言葉たちはフワフワした綿毛のように思える
だけど
言葉は利用されるシチュエーションにより
形を変える
ポジティブなときは花のように柔らかく丸みを帯び
ネガティブなときは岩のように硬くてトゲを持つ
ネガティブなときの言葉を花に変えられたら
チューリップの花弁のように苦さを守りたい
幼い頃、ジャングルジムが怖かった。
まず第一に登り方がわからないし、
もしかして一生出られなくなる迷路なのかと思った。
だけど、
あの頂上に辿り着けたら
これからの道を何も恐れることなく歩めるのかと
ふと思った。
ある日、友達に誘われて勇気を出して
ジャングルジムに登った。
誘導されることに安堵したのか恐怖心なんてなかった
そして、その友達と二人で頂上まで行った時
目が回った。
巧みに絡むジャングルジムの迷路のような格子が
私には複雑な知恵の輪の中にいるように思えた。
私が足を滑らせて落ちそうになった時、
友達は私の腕を掴んでこう言った。
「大丈夫だよ。
ここは勝負に勝った僕たちの優先席だから」
サヨナラさえ言えぬなら私はどうすればいい?
私はあなたを裏切ったの。
だから、別れの言葉を言わなくてはいけない。
誰かの声が聞こえる。
「今までありがとう」
君は誰なの?
「あなた」なの?
もし、そうならば…
誰かの声に涙を流す。
「せめて許せないと言って」
秋になると『君』を探す
普段は読まない小説を
読書の秋のせいか読みたくなる
だから今年の秋も恋をする
小説の中に現れる『君』に
筆者のイメージの『君』とは別に
私のイメージで『君』をつくりあげる
実在しない人に恋をする
アニメとは違う想像の世界に住む『君』に
去年の『君』は服には疎いけど音楽センスは秀でる
実際に会って話してみたかった
そう思わせる人だった
秋になると『君』を探す
秋になると紅葉のように頬は染まる