宝物
暖かな優しい陽が空から注ぐ
何年も前からこんな日を待ち望んでいた。
夫の胸に抱かれた小さな命は
すぅすぅと寝息をたてている。
「3人で散歩出来るって幸せだね?」
私の問いかけに
夫は
「2人でも幸せだったよ?」
目尻を下げて笑う顔につられて
私も微笑む
急にグズグズと動きだした我が子が目を覚ます。
これから1歳、2歳…その先の時間も共にするのだろうと思うと
何とも言えない気持ちになる
愛おしい私達の宝物⋯
生まれてきてくれてありがとう
たくさんの想い出
桜が舞い散る中でどきどきしながら門をくぐった春
友達が出来て部活に明け暮れた日々
蝉が鳴き騒ぐ真夏の補習
初めて恋をした秋
受験に追われて必死で勉強した冬
季節が巡って
何年経っても忘れない
たくさんの想い出
冬になったら
「冬になったら迎えに来るからね」
そう言い残して去って行った
夏が駆け抜け
秋が過ぎ去る
風が頬を刺すように吹き抜けていく
「もう、冬になったよ」
呟いた白い息が黒闇に吸い込まれる
ずっと待ってた
迎えに来るって言ったのに⋯
1人ぼっちにしないでよ
行かないで
その一言が
どれだけあなたを苦しめてきたのかわかってる
それでも、言わずにはいれなかった
私のワガママを…
涙とともに溢れた言葉はあなたの心に届くだろうか
最後は笑って見送るから
どうか少しだけでも長く側に居させてほしい
行かないで
お願いだから…
どこまでも続く青い空
泣きそうな顔で服の裾を掴んで離さない君をなだめるように
「また、すぐ会えるからそんな顔しないで笑って?」
何も言わずにそっと裾から手を離す君の柔らかい髪を撫でた
出発のベルが鳴り
あれから1年が過ぎた…
離れていても繋がっていると信じることで
寂しさや不安に押し潰されることなく毎日を過ごすことができるようになった
見上げる空は
君の所まで果てしなく続いて
僕たちを繋げてくれているんだろう
いつも君の幸せを願ってる
どこまでも続く青い空に