【こんな夢を見た】
こんな夢を見た
何を目指しているのか分からないが、屋根の上を歩いていた。
滑り落ちないように気を付けて歩きながら、隣の家の屋根に飛び移る。何軒も連なる屋根を歩き続けた。
沢山の昼と夜が流れた。陽が昇り沈み、月が満ち欠け、星は巡った。屋根は次々現れ、歩みは止まる事がない。
或る夜、ほうき星が目の前を横切った。思わず、その光る尻尾に手を伸ばした。
あ、と思う間もなく、身体は空へ翻っていた。身体は軽く、落ちているのか浮いているのか分からない。足元に屋根は無く、身体は投げ出されたそのままの体勢で、重力から自由になっていた。
私はほうき星の尻尾を掴み、ほうき星と共に空を流れていた。ほうき星は軽く尻尾を振ると、「ああ、見つかった」と笑った。
【タイムマシーン】
もしタイムマシーンがあれば
私は過去に行く
漱石の木曜会に参加して
夢十夜の感想を伝える
私がどれだけ
この作品を愛しているか
それだけを伝える
【特別な夜】
インターホンが鳴り玄関に出ると、燕尾服とシルクハットの黒猫が立っていた。
帽子をとって優雅に一礼し、私を迎えに来たと言う。お迎えなら仕方がないので、私は黒猫に付いて行った。
黒猫は慣れた仕草で腕を差し出す。ならば、と私もその腕に手を添えた。
黒猫は、緑に輝く瞳を細めて笑った。燕尾服もシルクハットも黒い毛に同化し、夕闇に溶け込んでいる。
どこをどう歩いたのか、気が付けば、大きな洋館の前に立っていた。
「海猫軒」という札が出ている。
黒猫は私をエスコートしたまま扉に手を伸ばす。特別な夜の幕開けを知らせる音が、蝶番の軋む音として響いた。
【海の底】
どんな言葉も
君に伝わらないのなら
貝になりたい
貝になって
海の底に沈む
昏く澄んだ海の底
ときどきぽつりと
あぶくを吐く
【君に会いたくて】
意地っ張りな君が
ふとこぼした
「アイタイ」
同じ気持ちの僕は
夜を飛び越える決心をした