白妙

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【特別な夜】


 インターホンが鳴り玄関に出ると、燕尾服とシルクハットの黒猫が立っていた。

 帽子をとって優雅に一礼し、私を迎えに来たと言う。お迎えなら仕方がないので、私は黒猫に付いて行った。

 黒猫は慣れた仕草で腕を差し出す。ならば、と私もその腕に手を添えた。

 黒猫は、緑に輝く瞳を細めて笑った。燕尾服もシルクハットも黒い毛に同化し、夕闇に溶け込んでいる。

 どこをどう歩いたのか、気が付けば、大きな洋館の前に立っていた。

 「海猫軒」という札が出ている。

 黒猫は私をエスコートしたまま扉に手を伸ばす。特別な夜の幕開けを知らせる音が、蝶番の軋む音として響いた。


1/21/2024, 12:33:38 PM