「失恋」
好きな人に恋人ができたらしい。
まあ、友達づてにしかそれを知れない時点で可能性はなかったのだけれど。そっか、失恋か…。何かを失ってしまったような、実際何も変わっていないような。ただ頭がぐちゃぐちゃになってる感覚。どうにかならないかな。
「…そうだ、髪切ろう。」
この何とも言えないモヤモヤした気持ちごと、バッサリと。
「最近ショート流行ってますもんね。こんな感じとかどうですか?」
見せられた写真で、自然と目のいくのは好きな人と似た髪型。失恋して髪切るのにそれはどうなんだと思うけど、もう他のにする気はさっぱりなかった。まあ、全く同じなわけじゃないし。
「こんな感じでお願いします。」
休み明け、首元に風を感じながら新しい気持ちで歩いていく。思ったより清々しい気分で、これなら好きな人とその恋人を見ても平気でいられそう、なんて思えちゃうくらいだった。
あ、目が合った、と思ったのと同時。
「え、髪切ったの?似合うじゃん!」
と輝かしい笑顔で言われた。
せっかく髪切ったのに。ますます好きになってどうすんだ。
「正直」
正直な君とそれとは正反対な自分。
君はいつも真っ直ぐに愛を向けてくれるけれど、私は冗談にしてしまったり、受け流してしまったり。本当は私だって目を見て微笑みながら、大好きだよ、なんて言いたいのに。
「今日も2人でいられて幸せだなあ。」
君は私の手を握り、笑みを浮かべながらそういった。本当はその笑顔が好きで好きで仕方ないのに、そんなこと言ったら重苦しいかも、というかそんなこと恥ずかしくて言えない…とか何とか。
何か返さなきゃ、と勇気を出して、
「うん。」
と一言。可愛げもないだろうなあ。
それなのに、君は私の方を見て、
「同じ気持ちでいてくれてすごく嬉しいよ。」
なんて。ああ、私はこの人の真っ直ぐで素直なところが大好きだ。たまに正直に話しすぎて自爆しちゃう所も。私は君みたいにはなれないけど。
もうめちゃくちゃに大好きだよ、なんて心の中で叫びながら君の胸へ飛び込んだ。
「梅雨」
何のイベントもないこの時期に限ってずっと雨だなんて、憂鬱な気持ちにならないわけがない。空の色が暗いせいか、ジメジメした空気のせいか。まあどっちでもいいけど。そんなことを考えるのすらだるい気がしてくる。
「髪もまとまらないしな…」
雨音にかき消されるくらいの声量でそう呟く。別にちょっと髪がまとまっていないことくらいあの人どころか誰も気づかないだろうに。ささいなことでもやもやして、気分が暗くなる。
「恋かあー」
何だか切なく聞こえる。雨のせいだよ、うん。
傘をたたみ室内に入る。この床とかがベタベタな感じもあんま好きじゃないんだよなあ。
いつもの場所に座ってぼーっと外を眺めるも、何ともつまらない。
「もうめっちゃ降ってきて!ベッタベタなんだけど」
大好きな声が聞こえて反射的に声の方を向く。
あの人の綺麗な黒い髪は雨に濡れてぺたんとしていて、首筋にも水がつたっている。困ったように笑う表情も相まって、なんというか、そう、これが水も滴る、っていう…
「…梅雨も悪くないかな。」
「無垢」
さほど暑くもない晴れた日。ピクニックをしよう、と誘われてどこまでも広がっていそうな草原に来た。彼女は白いワンピースを靡かせて、少し茶色っぽい髪の毛を揺らして、
「おべんとー楽しみだなあ。」
なんてふわふわ笑っている。どうしようもなく心は浮き立ち、恋焦がれてしまう。この激しい鼓動とは裏腹に彼女は軽い足取りで草原を駆け抜けていく。
「ここ、座ろっか。」
大きな木の下にそのまま座ろうとするので慌てて持ってきた布を敷く。
「ありがと。ふふっ、2人でピクニックなんて幸せだなあ…」
「ああ、本当に…」
このまま2人だけの世界に閉じ込めてしまいたいくらい、なんて。きっと無垢で真っ白なあなたは、こんな思いに気づいていないんだろう。