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6/1/2024, 12:14:07 PM

「梅雨」
何のイベントもないこの時期に限ってずっと雨だなんて、憂鬱な気持ちにならないわけがない。空の色が暗いせいか、ジメジメした空気のせいか。まあどっちでもいいけど。そんなことを考えるのすらだるい気がしてくる。
「髪もまとまらないしな…」
雨音にかき消されるくらいの声量でそう呟く。別にちょっと髪がまとまっていないことくらいあの人どころか誰も気づかないだろうに。ささいなことでもやもやして、気分が暗くなる。
「恋かあー」
何だか切なく聞こえる。雨のせいだよ、うん。
傘をたたみ室内に入る。この床とかがベタベタな感じもあんま好きじゃないんだよなあ。
いつもの場所に座ってぼーっと外を眺めるも、何ともつまらない。

「もうめっちゃ降ってきて!ベッタベタなんだけど」
大好きな声が聞こえて反射的に声の方を向く。
あの人の綺麗な黒い髪は雨に濡れてぺたんとしていて、首筋にも水がつたっている。困ったように笑う表情も相まって、なんというか、そう、これが水も滴る、っていう…

「…梅雨も悪くないかな。」

5/31/2024, 3:42:04 PM

「無垢」
さほど暑くもない晴れた日。ピクニックをしよう、と誘われてどこまでも広がっていそうな草原に来た。彼女は白いワンピースを靡かせて、少し茶色っぽい髪の毛を揺らして、
「おべんとー楽しみだなあ。」
なんてふわふわ笑っている。どうしようもなく心は浮き立ち、恋焦がれてしまう。この激しい鼓動とは裏腹に彼女は軽い足取りで草原を駆け抜けていく。
「ここ、座ろっか。」
大きな木の下にそのまま座ろうとするので慌てて持ってきた布を敷く。
「ありがと。ふふっ、2人でピクニックなんて幸せだなあ…」
「ああ、本当に…」
このまま2人だけの世界に閉じ込めてしまいたいくらい、なんて。きっと無垢で真っ白なあなたは、こんな思いに気づいていないんだろう。