ぬくもりの記憶
ハロウィンだろう。幼少期の写真を見返した中に強烈な黄緑。ベロア生地でこの色を好んで着る幼少期など、記憶にない。
ベロア生地なのだ。まず量産されるコスチュームに(子供のハロウィン用なら尚更)使われる物ではない。
母はかつて手芸部だったと言っていた。そこまで熱心ではないと言いつつ、部活対抗リレーにウエディングドレスで走ったという話を教えてくれた。
あのころの10月末は寒かった。小さい私は、おそらく色味を合わせるために染められたインナーも着ていた。
レース生地と針金で出来た羽。「トリックオアトリート」の「ト」を言いかけて絶妙な顔をしてるけど、それはティンカーベルの仮装だった。
母の背を越した。
母の新しいPCは私がセットアップをした。
受け入れ難い母の発言に、反論ではなく無視を選ぶようになった。
それでも母は
ストーブを付けるように。とか、
カレーはちゃんと温めた?とか。
記憶ではない。まだ記憶ではない。
しかし、いつか記憶になってしまう。
その時私は、そのぬくもりを認識するだろう。
Fellow.
単語帳には仲間と載っている。右隣から不正解を笑い飛ばす声がやってくる。
デジタルで勉強しているから。ほら、ここには特別と書いてあるでしょ?
スマホを見せようとしたのは私。それを汲み取った隣人は椅子ごと身を寄せて、ぐいぐいと壁ぎわに追いやってくる。
まあまあ、似たようなもんだとまた笑う。
「仲間、仲間といったら特別てきな。そんなに負けて悔しいの〜??」
たかが単語テストの、たかが2点差で有頂天になっているやつが、どうしてそんなアバウトに言葉を括るのだ!
私にはとてもできない。あなたを仲間と思う、けれど特別とも想うこれは、ひとつの単語には括れない。
2点差は確かに大きかった。言葉少なに文句で返すのだって、悔しいから。絶対そう。
オレンジの蛍光でなぞってやった。忘れないように。
仲間なのだ。あと3ヶ月だけ。
「とっくに覚えてるっての」
覗き込まないで。そろそろ押しつぶされそう。