「再会は約束しない」
たぶんもう会うことは無いだろう。
そう思ったから、あえて「またね」とは言わなかった。
このままフェードアウトするつもり。
ズルいと思われるかもしれないけど、最後に言いたいことを伝えるのも疲れるのだ。
自然な流れを装って、別々の道へ進もう。
たぶん、もう心はとっくにそれぞれ別の世界にある。連絡を少しずつ減らしていけば良いだけ。
もしもいつかまた、同じ世界で会えたら、その時は「久しぶり」と言おう。
だけど、また昔みたいな関係に戻れるかどうかはわからない。
色褪せることがないと信じていた思い出は、箱に仕舞われて押し入れの奥。
今はまだ、保管しているそれらを手放すとき、連絡先も消すことにしよう。
私が居なくなったとき、連絡がいかないようにするために。
────バイバイ
「また来ようね」
ふと目に入ったポスターに導かれ、予定外の寄り道。
いつものような鉄道旅だったら、こうはいかない。
自分の速度でしか進まないのは、縛りがないけど完全に自己責任。
どちらも良くて、どちらも窮屈。
「あー、寄り道したから、ここは寄れないな」
「また来た時でいいんじゃない?」
今度いつ来られるか、わからないけど。
余計なひと言は、お互い口には出さない。
『ふたりで行きたいところリスト』は増える一方。
意外と日本は広くて、行ったことのない場所の方が多い。
今度ここに来るのは、いつになるやら。
その時は、ふたりのこの関係も名を変えているだろう。
────旅の途中
「一番そばで一番先に」
子供の頃に彼女が言っていた。
「年を取ったらみんなおじいちゃんおばあちゃんになるんだよね。おばあちゃんになりたくないなぁ……」
俺たちにとって『おばあちゃん』というものは、近所に住む意地悪ばあさんだった。
まだ幼い彼女は、年を取ると全員あの意地悪ばあさんみたいになると思っていたのだ。
「そんなことあったっけ」
そのことを彼女に言ってみたが、すっかり忘れていた。
いや、忘れていても構わないのだけど。
「ほんと、よく覚えてるよねぇ」
彼女は子供の頃のことをあまり覚えていないようだが、俺は色々なことを覚えている。
一番近くで、ずっと彼女のことだけを見てきた。
だから、もうすぐ孫も産まれるというのに、いまだに彼女の新しい一面を見ることに驚く。
そしてきっと、この先も一番に見つけていく。
────まだ知らない君
「彼女は太陽」
「そんな所にいたら寒いでしょ」
彼女に腕を掴まれて、陽の当たる場所へ。
「ここの方が暖かいよ」
彼女は太陽のような人だ。
ぐるぐるぐるぐる。色々な人が、立ち替わり入れ替わり彼女のそばに来て、いくつもの輪が出来ていく。
輪をつくるのが苦手な私は、ただ、彼女のそばに座る。
近くにいるだけであたたかい。
何もせず、ただ彼女のそばにいるだけの私だけど、誰かに妬まれているような感じはしない。
これも彼女のお人柄なのかもしれない。
たまに陽気で人懐こい子に誘われ、輪に入れてもらうこともあるけど、ひとりで彼女のそばに座ってるいる方が性に合ってる。
「あの子たちのところにいかないの?」なんてことを彼女は言わない。
ひとりで座っている方が気を使わなくていいと思っていることを尊重してくれるのだ。
私は彼女みたいになれない。
だけど、私に出来ることがあるなら、いつでも彼女の力になろう。
────日陰
「オレンジの帽子」
前日の晩から明け方に降った雪が、朝から元気いっぱいの太陽パワーでどんどん溶けていく。
木から、電線から、ボタボタと雪が落ちてくる。
小学校指定の帽子では心許ないのだろう。色とりどりのニット帽を冠った集団登校の小学生たちが歩いている。
その中のひとりの児童に、目が釘付けになった。
私が編んだ、オレンジをイメージした帽子を冠っている。
知り合いがやっているカフェの雑貨コーナーに置かせてもらったもので、先日売れたとメッセージが来たのだ。
ぴょこぴょこと落ち着きのない歩き方をする子だなぁ。
でも、たぶんあの子に合ってる。
今編んでいるのは、イチゴをイメージしている帽子。あと少しで完成する。
今日中に完成させて、次の休みの日にお店に持って行こう。
私は今日と今週末のスケジュールを調整し直した。
────帽子かぶって