小絲さなこ

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1/5/2025, 8:26:03 AM

「禁じ手だと、わかっていても」



『婚活で会う人にはね、あなたにとっての幸せって何ですかって訊くようにしていたの』

三年前に結婚し、現在育児中の友人の台詞を思い出す。
この言葉を聞いた当時はまだ、自分が婚活するなんて思ってもいなかった。


「君にとっての幸せって、どういうものだと思う?」

目の前にいるのは、マッチングアプリで知り合った、初めて対面する男性。

「あなたはどうなんです?」

質問に質問返しは禁じ手だけど、出方を見たい。

私の回答で今後の展開が決まるなら尚更。


初対面で一番最初に訊くのは、合理的過ぎやしませんかねぇ……と思いながら。



────幸せとは

1/4/2025, 8:30:58 AM


「夜明けなんて来なければいい」



『あけおめー』
『今年もよろしく』

真夜中のチャットルームは年中無休。

『新しい年になることのどこがおめでとうなんだろうね』
『それな』
『新年の雰囲気、苦手』
『わかる』

今年もこんな感じなのだろうか。
昼夜が逆転した生活。
画面越しの会話しかしない日々。

あえて言わない、言えないこと。
踏み込まない、踏み込まれたくないこと。
抱えている内容は違えど、触れたくない、触れられないのは同じ。
冷静に状況を見ている、もうひとりの自分。そいつに押しつぶされそうになっていることも。


明けない夜は無い──人に言われたくないフレーズのひとつ。
だけど、自らそう言えるようになったら、夜明けは近い。

だけど本当は、夜明けなんて来なければいいと思ってる。



────日の出

1/3/2025, 7:03:55 AM


「平穏な日々は見えない奇跡」


人混みが苦手なので、初詣は日の出前の時間帯を狙う。

鳥居の近くでは夜通しウロウロしていたであろう集団が騒いでいる。
普段はこの時間に誰もお参りしてないんだろうなぁと思うと不思議な感じ。
ただ新しい年になっただけなのに、すべてが新しくなる気がする。

御守りをお返しして、本殿に昨年護っていただいたお礼を伝える。

昨年は厄年かと思う程、散々なことばかりの一年だった。

勤め先の小売店が閉店して無職になり、その後再就職した会社はブラックで、逃げるように即退職。
その上、学生時代からの友人に彼氏を寝取られたり、轢き逃げの被害に遭ったり、感染症にも罹ってしまった。
あれだけ病院のお世話になったというのに、入院する程の事態にならなかったのは幸運と言えるかもしれない。
どうにか晩秋に再就職もできた。今の職場はブラックではないと思う。たぶん……

抱負なんて大袈裟なものは思い浮かばない。
ただ、平穏な日々を送りたい。

今、当たり前だと思っていることが、ずっと続いていくこと。

それがどんなに難しいことか。


お参りを終えて鳥居から出ると、東の空が明るくなっていた。




────今年の抱負

1/2/2025, 7:34:50 AM

「今年も相変わらずの一年を」



「あけましておめでとう」
「あけおめー」
「はぴいやー」
「おめでとーおおお、花火っ!」

いつものメンバー男四人で二年参り。
俺たちは、寺の境内から続く参道で待機中に新年を迎えた。
どっかんどっかん花火が上がり、周囲の参拝客から歓声が上がる。

「今年もよろしくー」
「おめーよろー」
「よろしくー」
「うおお。ブレた。やっぱ花火撮るの難しいなぁ」
「動画で撮ってそれスクショするといいぞ」
「なるほどー。お前、マジ頭良いな」
「しかしこれ、いつ本堂入れるんだろうな」

どうやら俺たちの集合時間は少し遅かったようだ。

「まさか仁王門まで並んでるとは思わなかったな」

来年いや、今年の大晦日に来るときは、もっと早い時間に来ないと。

「いやー、新年って感じしないな!」
「そう?」
「今言う?あけおめ言ったばかりで言う?」
「だって、いつものメンバーだし。なんだよ、ひとりくらい着物着ててもいいのに、みんな普通の格好だし!」
「着物なんて浴衣しか持ってねーぞ」
「俺、浴衣も無い」
「ま、男の着物なんかどうでもいいけどさ」
「あー、はいはい」

ダラダラと話しながら待っていると、列が動き出した。

「なぁ、お願いごと何にすんの?」
「こういうのって、去年無事に過ごせたお礼言うもんじゃないの?」
「はー……これだから純粋バカは。やっぱ彼女がほしい、だろ。あとは……」
「除夜の鐘の整理券貰った方が良かったんじゃね?こいつの煩悩祓わないと」
「祓える煩悩なら、いいんだがなぁ」

今年も、なんだかんだでこいつらとつるんで一年過ぎるんだろうな。
それはそれで悪くない。


────新年

1/1/2025, 7:10:35 AM


「最後の挨拶」


ラジオからは今年のヒット曲メドレー。
今日が今年最後の日だなんて、実感がない。
大掃除と似て非なる引越し準備は、なかなか進まない。

気がつけば午後六時半過ぎ。
続きは年明けにしよう。

ひとり分の蕎麦を茹でて、薬味と日本酒と共に食卓に並べる頃には、紅白歌合戦が始まろうとしていた。
今回の年末年始の休暇は実家には帰らない。
ひとりきりの大晦日もお正月も、きっとこれが最後だろうから。

早めに入浴して、ストレッチしながら紅白歌合戦を聴く。
友達からの「良いお年を」のメッセージに混じって届いた彼からのメッセージに返信した。

彼に年の瀬の挨拶をするのは、これで最後。

「一ヶ月後には一緒に住んでいるなんて、信じられないなぁ……」




────良いお年を

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