「幼馴染のあいつ」
「付き合ってないなんて、絶対嘘だろ……」
本当のことだ。
俺とあいつは彼氏彼女の関係ではない。
「お前ら距離感おかしい!」
どのへんがおかしいんだ?
なんだよ、その呆れたような顔は。
「この年で異性の幼馴染とそんな仲良いとか、絶対認めない!」
いや、認めないって何だよ。
もしかして、お前あいつのこと……
なんだよ、そんなに否定することないだろ。馬に蹴られたくない?
いやいや、だーかーらー!
俺とあいつはそういうんじゃねぇって。
「じゃあさ、例えば他の男……そうだな、女子たちが騒いでるサッカー部のエースのイケメンいるだろ。そいつがあの子に告ってたらどう思う?」
どうって……
そんなの、あいつが決めることだし……
「例えば、の話だって!」
「お前、今自分がどんな顔してるか教えてやろうか。親の仇見るような目ぇしてるぞ」
そんなの、鏡がないからわかるわけないだろ。
────距離
「これが最後」
貴方と会うのはこれが最後。
そう思いながら過ごす一日は、何もかもが輝いて見えた。
最後なのに、また会うみたいな挨拶をして、背を向け歩く。
振り向かない。
絶対に、振り向かない。
名を呼ばれても、肩を掴まれても。
泣き顔なんて、絶対に見せたくないのに。
いつも貴方は私のみっともない姿を見ようとする。
そのくせ私には格好悪いところを一切見せてくれない。
言わないで。
何も言わないで。
貴方にとっては慰める言葉かもしれない。
でも私にとっては、なによりも残酷な言葉。
貴方と私は今日が最後。
そのはずなのに……
一番綺麗に終わりたい。
そんなささやかな願いすら、貴方は叶えてくれない。
────泣かないで
「落葉する巨木」
「あーあ。全部色付かないまま落ちちゃったか」
せっかくここまで来たのに──余計な一言は口の中だけで呟く。
はらはらと落ちていく黄緑色の葉。
地面を覆い尽くしているそれらを踏みながら、彼とふたり、巨木の周りを歩く。
「今年の秋は紅葉が遅かったね」
いつまでも暑かったせいだ。
温暖化は春夏秋冬の秋を削り取ろうとしているかのよう。
「このまま温暖化が進んだら、どうなるんだろうな。来年もこんな感じだったら……そのうち、秋が無くなるかもしれん」
彼はそう言って巨木を見上げた。
強い風が吹き、枝がわさわさと揺れて葉を落としていく。
「そうだね」
来年はこの木の紅葉を見ることが出来るだろうか。
その頃、私たちふたりはどうなっているのだろうか。
まだ一緒にいるのか、それぞれ別の道を歩んでいるのか。
いつだって私の未来は白紙で、彼が持ってきた具材で夢を描いてきた。
これからもずっと、このまま彼を頼っていて良いのだろうか。
「来年はきっと大丈夫だよ。そう信じよう」
そう言って彼は私の手を握った。
いつだって彼は私より温かい。手も、顔も、体も、心も全部。
ひんやりとした風に乗って遠くから聞こえてくる、童謡『雪』
灯油の移動販売車だ。
秋はもう、終わり。
────冬のはじまり
「契約更新」
貴方と私の関係は契約で結ばれた期間限定の恋人。
私は多額の報酬が欲しかった。それだけのはずだったのに。
普段から恋人っぽく振る舞えば違和感がないから。そんな貴方の提案は、私の心を掻き乱していった。
貴方の仕草や一言一句に胸が痛くなったり、あたたかくなること。
それが何なのか、私は気付かないふりを続けた。
どちらかが、恋愛感情を抱いてしまったら、即契約解除。
少しでも貴方に気があると思われてはいけない。
眠れない夜もあったし、浴室で泣いたこともあった。
そんなドラマのような生活も、もうすぐ終わる。
そう思っていたのに……
「契約内容の変更と期間延長をしてもいいだろうか」
終わってほしい関係は、まだまだ続く。
────終わらせないで
「お弁当を作ろう」
「なぁ、愛情は料理の隠し味っていうけど、あれ本当なのかな」
ある日の昼休み。
悪友のひとりが弁当をつつきながら呟いた。
「さぁ?」
「ていうか、今お前が食ってるそれ、オカンの手作り弁当だろ。愛情たっぷりで美味いんじゃねーの?」
「いや、母親のは家族愛だから、違うだろ」
「家族愛も愛情だろ」
「ちげーよ」
「じゃあ、どういうのが愛情なんだよ」
「それは……」
俺たち四人は顔を見合わせた。
「愛って……なんだろう」
「一気に哲学めいてきたな」
「つーか、なんの話してたんだっけ」
「愛情は料理の隠し味っていうのは本当なのかどうか」
「あー……」
「実験するしかねーな」
「実験?」
「よし、明日、各自弁当作って食べ比べだ!」
かくして、明日お弁当対決することになってしまった俺たち。なぜこんなことに……
────愛情