「すべて俺のせいにして」
「何のために生きているのかわからない」
そう言って俯いたままの君の手を取る。
「俺のために生きて」
だから、理不尽なことも、辛いことも、俺のせいにしていい。
俺は君のために生きるから。
「そんなの不公平じゃない?」
見上げる君の額に、口付ける。
そんなことない。
嬉しいことも、楽しいことも、俺のおかげだって思ってくれるなら。
────生きる意味
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「君に伝えたいこと」
自分が何者であるか、とか。
特別な何かになりたい、とか。
そういうことも含めて、ずっと考えて、出なかった答え。
ただ、行き着いたのは「自分が生きている間に、本当の意味での『生きる意味』など、自分ひとりではわからない」ということ。
誰かのために生きるのではなく、本当の意味で自分のために生きて、それが何の意味を持つのか。
世の中にとって、自分はどんな役割を持つのか。
悩んで出てきた答えが正解とは限らない。
その人が生きる意味は、周囲とその人との関係性によって、異なるのではないだろうか。
そう思えるようになるまで、だいぶかかってしまった。
もっと早くこの考えに辿り着ければよかったと思うと同時に、ずっとそれを探し続けることにこそ、意味があったのではないか、とも思う。
まるで年の離れた兄のように俺のことを慕ってくれる君は、ピンと来ないという顔をして聞いている。
わかるよ。自分もそうだったから。
今ならわかる、人生の先輩たちの言葉。
人生は遠回りしたもん勝ち。
うざがられるのはわかってるけど、若い人につい言ってしまう言葉。
自分の存在意義など、生きているうちにはわからない。
だからといって、悩む意味がないわけではない。
悩むこと、そのものに意味がある。
悩んで、足掻け。
────生きる意味
「プリズム」
片方だけでなく、色々な角度から見るんだよ。
あの人はそう言って、色々なモノの見方を教えてくれた。
ヒーローは本当にヒーローなのか。
悪者は本当に悪者なのか。
壁にぶつかった時、異なる意見に納得できない時、あの人との会話を思い出す。
みんなそれぞれ、自分が正しいと思ってる。
その正しさが違うだけ。
────善悪
「忘れてもいいから」
生まれて間もない頃から数年。
自分の子供ではないけれど、自分の子供のように育ててきた。
明日でお別れだ。
まだ幼いから、きっと私のことなど忘れてしまうだろう。
私とは本当の親子ではないことを、この子は知っている。
そして、本当のお父さんとお母さんを求めていることも。
正直言って、本当の親に返したくはない。
あの人たちなんかより、私の方がこの子を愛してると思う。
だけど、この子が血の繋がりのある親を望むのなら……
どうかこの子が自分らしく幸せに生きていけますように。
どうか、どうか、あの人たちがちゃんと親としての愛を注いでくれますように。
どうか、どうか幸せになって。
私のことを忘れてもいいから。
────流れ星に願いを
「遠距離恋愛の三つのルール」
一言でもいいから一日に一度は連絡すること。
何かあったら遠慮せず相談すること。
絶対に自分たちは大丈夫だと信じること。
遠距離恋愛開始と同時に決めた三つのルール。
遠距離恋愛が終わって、戸籍をひとつにしてからも、そのルールは継続中だ。
そして、俺たちの話を聞いた娘もまた、遠距離恋愛中のルールを定めた。
色々あったようだが、その遠距離恋愛も、もうすぐ終わる。
婚姻届の証人欄に記入して呟く。
「ほら、大丈夫だっただろ」
────ルール
「いつものバス」
変な寝癖が直らなくて、憂鬱な朝。
いつもの時間、いつものバスであの人を見かける。
いつもなら、一瞬だけでいいからこっちを見てほしいと思うけど、今朝は見ないで、と思う。
わたしのちっぽけな願いは、いつも叶わない。
なんで今日に限って目が合うかな……
顔を逸らし、髪に触れる。
名も学年も知らぬあの人。
知っているのは、あの学校の生徒だということだけ。
灰色の厚い雲。
一箇所だけ切れていて、青い空が見えている。
────今日の心模様