小絲さなこ

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3/5/2024, 2:21:09 PM


「ふるえる唇」



「……まだかよ」
「もうちょっと、待って」

幼馴染だし、俺の部屋でふたりきりで今さら緊張するなんて、おかしな話だと思う。

付き合い始めて半年。俺の誕生日。
「なんでも言うこときくよ」と言った君。

俺だから良かったものの……そんな台詞、他の男には絶対言うなよ。


君は何度目かの深呼吸をした。
緊張がこちらにも伝わってくる。
告白も、彼氏彼女の関係になってから手を繋ぐのも俺からだった。
もちろん、キスも。

ただの幼馴染だった頃には、気安く俺に触れてきたのに、この関係になってから、君は自分から積極的に触れてこない。
恥ずかしいと思っているのは、わかる。
俺だって恥ずかしいんだよ!

だから、俺からのリクエストは「キスして欲しい」だ。


大きく息を吐いた君の手が、俺の手を握る。
うう。もどかしい。かわいい。そんなに緊張してるなんて。どうしてくれよう。
いやいや、我慢だ俺!
いくら焦ったいからって、動くなよ、俺!


────たまには

3/4/2024, 9:03:23 PM

「告げる三文字」



あの頃は、何の躊躇いもなく素直に言えたのに。
いつの頃からだろう。
心にもないことを言うようになったのは。

俺が目を逸らすのは、君があまりにも可愛いから。
でも、胸の奥の痛みもあたたかさも、視線を逸らすだけでは消えてくれない。


「ただの幼馴染だって言ってるでしょ!」
俺たちの仲を揶揄われて、君は声を荒げる。
目が合った俺から顔を背ける君。耳が赤い。

もしかしたら、君も俺のことを……?
いや、さすがにそれは自惚れ過ぎか。


春からは別々の道に進む。
だから、覚悟を決めた。

ずっと大切にしてきたこの気持ちを、たった三文字に込める。



────大好きな君に

3/3/2024, 12:31:49 PM


「ひなあられを買って」





「そっか。今日ひなまつりか〜。ねぇ、ひなあられ食べたい?」

スーパーの店頭。
桃色を基調とした可愛らしいパッケージを指し、ふたりの子供に問いかける女性がいた。

「女の子のお祭りだから、うちには関係ないでしょー!」
小学校低学年くらいの男の子は、そう言うと「こっちの方がいい」と、たけのこのモチーフのチョコレート菓子を手に取っている。


「ひなまつりって〜ひなまつりってぇ〜女の子のおまつり?」
隣にいる男の子が大きな声を出した。顔立ちが似ているので兄弟だろう。

「そうだよ」
得意気に答えるお兄ちゃん。

「ふーん。じゃあ、ママのおまつりだね!」
そう言って「ひなあられ買って〜」と、手を伸ばす弟くん。

思わずふたりのママを見てしまった。



品出し中、こんな光景を見るなんて思わなかったな。

今日は早番。
ひなあられを買って、隣町で暮らす母に会いに行こう。


────ひなまつり


 

3/3/2024, 3:32:54 AM

「junction」



物心ついた頃には、君が隣にいた。

見つけた目標。人生設計。
なにもかもが、ずっと君と一緒にいることを前提としている。


自分自身がわからなくなった時でさえ、変わらずに君はそばにいてくれた。

このあたたかさをずっと守りたい、そう思ったから、自分が何をするべきか本気で考えることができたんだよ。



うっすらと積もった雪は、十時過ぎにはもう溶けていた。
今シーズン最後の雪かもしれない。


正直言うと、離れたくない。
春にならなければいいのに。
このまま君を連れてどこかへ行けたらいいのに。
だけどそれではハッピーエンドにならない。

ふたりで決めた覚悟はひとつだけ。


目標を達成するための六年間が始まろうとしている。



────たったひとつの希望

3/1/2024, 8:29:26 PM


「オオカミ、尻尾を出す」



特技は、本当の自分を隠すことです。
その結果が、コレだ。


安心安全。人畜無害。
そう思われるように行動してきた。
気を許してくれてるのは、嬉しいけど、嬉しくない。

幼馴染だからって、きょうだいみたいに育ったからって、いくらなんでもこれはないんじゃね?

何の拷問だ、これ。
好きな子が自分のベッドの上でうたた寝してるなんて。



頭を撫でてみても、起きないお前が悪い。
どうなってもしらねーから。


顔を覗き込む。



「……いいかげん、起きろよ」

そして、この状況に慌ててしまえばいい。



────欲望

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