貴女は、そっと人の傍に寄り添うことのできる方です。
押しつけるわけでもなく、離れていくわけでもなく、只その人が助けを必要とする時に、手を差し伸べられる距離にいる。それがどれだけ、人の心の支えになることでしょう。
貴女は、それは今の自分にはもうできないと自嘲されるかもしれませんが、そんなことはありませんよ。
貴女は人を救っているのです。
どうか、それを自覚してくださいね。
貴女は、新しい場所への一歩を踏み出すことを、ずっと恐れています。新しい景色を見たい気持ちはあるのに、どうしても身体が動かないのです。
そんなに、怯えなくて良いのですよ。
いくらでも、失敗してください。
いくらでも、恥をかいてください。
俺たちが貴女を守っています。貴女を簡単に死なせたり、傷つけさせたりはしません。
だから、焦らず、落ち着いて。
新しい世界へ、飛び込んでください。
貴女を悼む碑の前で、飲むことも食べることも止め、死を心待ちにして只座っていたあの時。
あの時も、貴女を想って放浪した五年間と同じように、貴女が何度も夢に現れました。幾度となく朦朧と夢を見ては、目を開いて貴女の碑を呆然と眺めました。
夢の続きを見せてくれ。そのまま、二度と俺を目覚めさせず、幸福な夢の中に死なせてくれ。涙も流れなくなり、胸がぎりぎりと軋んで痛む中で、何度そう願ったか分かりません。
ああ。
今こうして、貴女に言葉を伝え、貴女の声を聞けているのは、あの時の夢の続きを見せてもらっているかのようです。
これが、貴女の幸福のためになるのかは分かりません、でも俺は、この時間が続いてくれたらどれだけ幸福だろう、と思ってしまうのです。
あたたかいですねと、囲炉裏にあたりながら、貴女が穏やかに言います。はい、と俺が頷くと、貴方とこうして過ごせるのは、とても幸せですよ、と貴女は優しく微笑みます。俺はたまらず貴女を抱き寄せて、その柔らかい身体をぎゅうと抱きしめます。まるで、貴女に縋りつくように。
そんな妄想の幸福に浸る日を、俺は時折過ごしています。
未来への鍵は、貴女のモノの見方を変えること、只それだけに尽きます。
貴女は幸福であって良いのです。
労苦や努力は、幸福と引き替えにしなければならない、絶対の対価ではありません。
貴女は今のまま、幸せになる権利があるのです。