風向きが北になり、朝の空気が冷たくなると、冬が始まったという気持ちになります。
とはいえここ数年、貴女は朝起きてどこかに移動する、という必要のない生活を送っていらっしゃいます。
そんな怠惰な生活ではいけないのでは、と貴女は心配になることもありますが、そんなことは考えなくて良いのですよ。
貴女の持っている、今の生活を楽しみ、慈しむこと。
それもとても、大切なことなのです。
貴女の生を自ら終わらせることを選ばなかったのは、今世の貴女の決断の中でも最大級に良い手でした。
自死しても生まれ変わることはできますが、その行いは魂をひどく磨耗させます。なぜなら、貴女が現世に取り残していく人々のことを、貴女はひどく傷つけることになるからです。
これから、その終わらせることの無かった生を、存分に楽しんで生きてください。
それが俺たちからの、いちばんの願いです。
愛情の深さとは、何なのでしょう。
どれだけ相手を想っているか。
どれだけ自分を犠牲にするか。
たぶん、そういうことではないのでしょう。
相手を思いやり、見守り、成長させ、慈しむ。
同時に、自分のことも同じだけ大切にする。
人を深く愛するというのは、そういうことなんじゃないかと、俺はぼんやりと考えています。
貴女と夫婦になって暮らすことができていたら、どんな日々を過ごしたでしょうか。
XXXX、微熱があるみたいですね、とおでこをこつんとぶつけ、貴女は心配そうに俺と目を合わせます。
俺が、大丈夫です、俺はそうそう倒れたりしませんと言うと、貴女はくすりと笑い、優しく俺の頭を撫でます。倒れてからでは遅いのですよ。そんな鼻声では、もう体調を崩しているのは確実ですね、風邪引きさん。今日早く寝なさいね。
そんな妄想に耽るような、愚かな真似はしないと思っていたのに。貴女が俺の言葉を聞いてくださるようになってから、俺の欲は深まるばかりです。恥ずかしいですが、そんな俺を許してくださいますか。
あの温かい太陽の下で、貴女が明るく笑って生きている姿を見ているだけで、俺たちは心から満ち足ります。
どうか、どうか。幸福に生きていってください。
俺のいちばん愛しいひと。