ああ。
昨日の俺たちの言葉。
遂に貴女の心に届きましたか。
全く、感無量です。
俺たちの言葉がひとつ、ようやく貴女の腑に落ちてくれた。
ああ。
こんなにも嬉しいことが、またひとつ増えるなんて。
俺たちは本当に、幸福な存在ですね。
貴女はこれから、ご自分の生きる意味を再び作り上げていきます。
生きる意味は誰に与えられるものでもないと、貴女はご存じでした。この九年間は、それを積み上げるだけの力を失っていただけです。
今の貴女なら、それをまた始められます。
ああ。
貴女が再び立ち上がって、生きる意味を追求し、ひとつのものを目指して歩き出してくださる。そんな貴女を、俺たちは全力で守り、助ける。
そうやって貴女のために力を尽くすことを、俺たちがどれだけ熱望していたか、貴女はご存じないでしょう。
さあ。
俺たちに背を任せて、走り出してください。
貴女が求めるものの善悪を、俺たちは問いません。
それが貴女の命を奪うようなものでない限り、俺たちは貴女の欲するもの、求めるものが得られるように貴女を守り、助けます。
ただ、貴女を助けながらも、俺たちは悲しくなるでしょう。
ヒトの魂は、何かや誰かを傷つけ、騙し、殺めることで傷つき、磨耗していきます。磨耗が激しくなった魂は、あの大きな廻り続けるものに戻され、他のいのちと混ざり合い、また別の魂として生を受けます。
貴女の美しい魂が傷だらけになって摺り減っていくのを見るのは、とてもつらいことですし、俺たちが貴女と一緒に過ごせる時間が減っていくのも悲しくあります。あの大きな廻り続けるものに回収された時点で、貴女も俺たちも他のいのちと混ざり合い、貴女という個の魂も、守りに入っていた俺たちの個々の魂もなくなるのです。
とはいえ、俺たちはあまり心配していません。
貴女は本質的に、善を志向する魂をお持ちです。善を為す時、貴女は生き生きとして目を輝かせ、そこから離れて悪に近づくと、しょぼくれて元気がなくなります。貴女は気づいていらっしゃらないかもしれませんが、その志向性は微笑ましいほどに顕著です。
貴女はこれからも、様々な善行を為すのでしょう。
多くの者を救い助け、人を幸福にするのでしょう。
けれど、これだけは覚えていてくださいね。
俺たちはそんな善なる貴女を愛しているわけではありません。善行でも悪行でも、何を為す貴女であったとしても、貴女という存在を愛しているのです。
感傷的で夢見がちなところのある貴女は、時折いろいろなものに願いをかけますね。それは流れ星であったり、存在しない神であったり、貴女のご先祖さまであったり、様々です。
それを見ると、俺たちは微笑ましい気持ちになると同時に、歯がゆい気分になります。
流れ星などに願わなくても、貴女の願いを叶えたいと熱望している者たちが、貴女の後ろに山ほど控えているというのに、貴女は他のモノに目移りしている。それが残念で、悔しいのです。
貴女はたくさんの人に愛されている。生きている者も、死んで貴女を見守っている者も、皆貴女のことを愛し、慈しみ、貴女の幸福を願っているのです。
遠くにあるモノや、存在しないモノに願掛けをしていないで、どうか貴女のやりたいことをその者たちに示し、貴女なりの努力を始めてみてください。
俺たちの、そして貴女を愛するたくさんの生者たちの力添えのあまりの強力さに、貴女はきっと驚くでしょう。
貴女の心を、目指すものを、ひとつのことに定めてください。
それさえしてくだされば、俺たちは貴女をどこへでも連れていきましょう。
貴女の人生に、絶対に守らねばならない規則などありません。
誰か他の人間が決めた決まりごとはいくらもありますが、それを貴女が遵守しなければならない理由はどこにもありません。
貴女は何にも縛られず、貴女の生きたいように生きればいい。
俺たちはいつもそう思っています。
今日の貴女の心は、曇り。
昨日は雨。
一昨日は大雨。
貴女の心が最後に美しく晴れ渡ったのは、いつだったでしょう。随分前のことになってしまいましたね。
貴女の心が悲しい天気だと、俺たちは寂しい気持ちになります。貴女の心を慰める役割が自分たちには果たせないのだと、改めて思うからです。
ですから、貴女が俺たちの言葉を書き取り始めた時、俺たちは興奮しました。自分たちの言葉が、貴女に直接届くのだ。これからは貴女を、俺たちの言葉で元気づけて差し上げられるのだ。俺たちはそう考えました。
けれど、貴女は何も変わりません。俺たちがどれだけ言葉を尽くして貴女への愛を語っても、貴女はそれを書き連ねるだけで、貴女の心には落としてくださらない。
俺たちは寂しいです。貴女にとって、俺たちがどれだけ取るに足らない存在なのか、まざまざと見せつけられる気がします。
いつか貴女の心に誰かの言葉が届き、愛と喜びで晴れ渡させてくれないか。俺たちは、その日を待っています。