お題『子猫』
いつからか友達が私のことを「子猫ちゃん」呼ばわりするようになった。
なにに影響を受けたんだか。長かった髪を短く切って、金髪に染めて、宝塚みたいに前髪をあげたりしちゃって、ジャケットを着た男装っぽい見た目になってしまった。
それで学校内では私の腰を抱きながら歩くようになった。まわりから「カップル?」だの「百合」だの言われて正直こちらとしては勘弁願いたいところだ。
ある日の帰り道、友達に
「なんで男装しようと思った?」
と聞いた。そしたら、私から目を逸らしながら「やりたくなっただけ」と言ってきた。
それから更に数日が経って別の友達から「あの子、あなたに悪い虫がつかないようにって言ってたよ」と教えてもらった。
そういえば、あの子が男装するようになったのは私がとなりの男子校の生徒に腕を引っ張られてどこかに連れて行かれそうになってからだ。
いつものように「子猫ちゃん」と呼んでくる友達に
「いつも守ってくれてありがとね」
と言うと、爽やかな王子様スマイルから一変、赤面して「べ、べつに……ってか聞いたの?」なんて言いながら顔をそらした。ちょっとツンデレないつもの友達だ。
ちょっと距離をとる彼女に私は悪ふざけの流れで腕にしがみついた。
お題『秋風』
在宅勤務でたまにしか外に出ない生活をしていると、季節感がわからなくなる。
最近まで半袖で問題なかったのが、長袖じゃないと寒すぎてしまって、でもコートを着ると逆に暑く感じてしまう中途半端な季節になってしまった。
たまに外に出る時、着る服を間違えて寒い思いをしたり、しばらく歩いていると暑すぎる思いをしながら秋風に吹かれるのだ。
お題『また会いましょう』
婚活で最初に会ったとき、目の前の男はずっとにちゃにちゃした笑みを浮かべていた。不躾にこちらの姿をわかりやすく上から下まで首を動かしてスキャンしているのが丸わかりだ。
それでカフェに行って席についたけど、向こうは喋らずずっとにやにやしたままこちらを見つめている。その空気が気まずくて、私はずっとしゃべり続けた。
それからふと、会話が途切れたタイミングで彼がようやく口を開く。
「綺麗ですね。カーディガンに花がらの膝丈ワンピース、よくお似合いです」
そして、デュフフフと笑い出した。
キモい、キモすぎる。鳥肌が立った。
私は一刻も早く帰りたかったが、彼はそれからもあまり言葉を返さず、彼から話を切り出すことなくニヤニヤしているだけ。どうにか話をつないで一時間くらい経った後に帰ろうって話になった。
「楽しかったです。また会いましょう」
喋らない分際でにちゃにちゃしながらそう言う彼に
「あ、はい」
とにこやかに返し、彼と別れ背を向けた瞬間表情を消した。
気持ち悪い。あなたとだけはないわ。と心で返した。
お題『スリル』
推しは出るんじゃない、出すんだ
職場の同僚がそんなことを言っていた。その時は、「あほみたいだなぁ」と思っていた。
だけど、あるソシャゲに手を出して、推しができた瞬間に同僚が言っていた意味がわかった。
推しは、絶対に欲しくなるのだ。
だけど、私は無課金と決めている。ガチャを回すとき、「でろ、でろ、でろ」と課金するかしないかの瀬戸際を味わっているのだ。
お題『飛べない翼』
ある日、怪我をして飛べない白い小鳥を見つけた。
なんだか痛々しそうで思わず連れて帰って消毒液を塗って、包帯を巻いてあげた。
それからしばらく一緒に過ごしたと思う。鳥かごを買おうとしたら嫌がったし、鳥の餌を買おうとしたらつつかれて、人間の食事を好んだっけ。
とにかく仕事で疲れている僕の癒しになったことは確かだ。
何日か経って、小鳥は窓の外を見つめるようになった。
「どうしたの?」
と聞いたとたん、眩しい光が部屋にあふれて気がつくと僕の目の前に白いワンピースを着た少女が立っていた。少女の背中には真っ白な翼が生えていた。
「君……」
「今までたくさんお世話してくれてありがとう。楽しかった。でもごめん、戻らないと」
そう言って女の子は翼を広げ、光さす空の方へ飛んでいった。
とつぜんのことに呆然とした僕はなにも言えず、ただ空を見上げるしかなかった。