白糸馨月

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7/19/2024, 12:11:27 AM

お題『私だけ』

 私には推している配信者がいた。最初、無名だったその配信者のリスナーは私だけだった。見つけたのは、とある配信アプリだった。その頃は特に推しがおらず、適当な配信中の枠に行って無言で聞くのが日課だった。彼はそのなかの一人だった。
 とてもいい声なんだけど、たどたどしく、がんばって話しているのを見て、なんだかはなれるのが申し訳なく、最初は一つの配信が終わるまでずっといて、彼の話し相手になってあげていた。
 それがだんだん心地よくなって、しばらくは私だけの推しになっていたが、ある時、彼が歌ってみたをYoutubeにあげてから徐々にリスナーが増えていった。歌をがんばっていることは配信でずっと言い続けていることだった。実際、彼の歌はとんでもなく上手かった。特に得意なのはピアノの演奏に合わせたエモを誘う曲だった。
 最初は、増えていくファンに感慨深いものを感じていだけど、彼のトーク力があがり、リスナーが増えていく。彼は私だけのモノじゃなくなっちゃったんだ。
 そうなってから、気がつくと彼の配信をあまり聞かなくなってしまった。今や彼はその配信アプリで必ずといっていいほど、現時点での視聴者数一位に躍り出るようになっている。
 また推しがいない生活に逆戻りかぁ。
 そう思っていると、スマホに通知が入った。彼からだ。
 実は、私は最初のリスナーだったのでXは相互フォローだし、人数が少ない時にオフイベに参加していたからLINEもつながっている。彼とのタイムラインは、ほぼオフイベントの宣伝ばかりだ。そのなかにいま来たLINEの通知は今までと毛色が違うものだった。

「ひさしぶり。最近、配信こないね。忙しいの?」

 と書いてあった。その瞬間、私は口角が自然と上がる。今やあれだけリスナーがいるというのに、この男は配信が始まるたびに私の名前を探していたということになる。

「ははぁーん、さてはさみしくなったかぁ、このワンコめ」

 私はスマホを手に取ると、「まぁね。それより最近、調子いいみたいじゃん」と返信した。そしたらまた彼からLINEがすぐ返ってきて、しばらく会話が続いた。
 最初の頃みたいに二人しかいない配信枠のことを思い出して、楽しくなった。

7/18/2024, 3:51:46 AM

お題『遠い日の記憶』

 学校に友達はひとりもいなかったけど、プールの時間はなぜだか楽しかった。冷たい水のなかに体を沈めて泳ぐのが気持ちいいし、うちの小学校には段位制度があってそれを一つずつこなしていくのがなんだか楽しかったのを覚えている。
 運動神経は悪かったが、水泳を習わされていたからカナヅチではない。だから、体育の成績がいつもビリの私でも水泳だけは「クロールができる」、「平泳ぎができる」というだけで段位が上がっていったのが自信につながったのを覚えている。
 今や小学校の頃なんて遠い昔の話だ。今じゃあの頃よりも夏がずっと暑くて、きっと外じゃ授業が受けられないんだろうなと思う。
 最近、海外旅行へ行ってホテルのプールで泳いでめちゃくちゃ気持ちが良かったのを受けて、ふと昔のことを思い出しただけの話である。

7/16/2024, 11:47:33 PM

お題『空を見上げて心に浮かんだこと』

 鮮やかなブルーの空はたしかに綺麗なんだけど、うるさくなるセミの鳴き声や、体に感じるじめっとした熱気や、上から照りつけてくる太陽の光のせいでとてもじゃないが「空がきれい」なんて言えない。
 いまゴミを出すために外へ出た時も体に感じる湿気と、暑さを感じて空を見上げるよりもクーラーがきいてる家にいたい欲求が勝ってしまう。

7/16/2024, 2:21:21 AM

お題『終わりにしよう』

 毎回終わりにしたいと思っていることがある。それは、「深夜にスマホをいじること」だ。
 ベッドに横たわってスマホを手にとってGoogleで次々と連想ゲーム的にワードを検索してその情報を調べるのがクセになっている。それを何回も続けてスマホの時計を見た時「まずい」となってようやく眠りにつくのだ。
 だが、そういう時になって眠れないことが多くて、たまに目をつむったまま一睡もできなかった、なんてことがある。それに眠くなるのはいつだって日中だ。自業自得である。
 一度、スマホの充電器をベッドに置かないようにして眠りにつこうと試みたことがあった。寝る前にスマホを見ないことで眠れるようになった反面、一日の充実感がなくなった。なんだかつまらなくなってしまって、だからまた元に戻ってしまった。
 今度こそ、この習慣を終わりにしようと思う。終わりにしたい。終わりにするんだ。

7/15/2024, 4:54:49 AM

お題『手を取り合って』

 大変なことが起きてしまった。
 私は月曜日になって、さっそくコンビニで買った分厚い本誌を開きながらフリーズしてしまった。
 大変だ、推しカプが共闘しようとしている。
 たしか先週は推しが片割れと邂逅したところで終わっていた。

 私は好きな漫画が増えれば自然とキャラクターも好きになり、そのキャラクターと関係性が深いキャラクターと公式の設定をねじまげながら創作をしている。だいたいが男同士なのでいわゆる腐女子だと思う。
 ちなみに今、本誌で追うほど好きな漫画の推しカプはお互いに犬猿の仲として知られている人気カプである。
 互いに顔を合わせればいがみ合い、時には殴り合ったりしているような仲だが、元相棒で昔は親友のように仲が良かったという設定だ。その過去編が良すぎて何人のオタクが彼等の関係性に落ちたか分からない。すれ違いと誤解にまみれた、そんな男二人だ。

 それが今週号でどういうことか利害が一致して、手を組もうとしている。一連の会話を読んで、「どういうこと?」となり、二人が文字通り『手を取り合った』シーンで私の情緒が爆発した。
 今週号はここで終わっている。大変だ。なにも喋れない。衝撃のあまりここからしばらく動けそうにない。
 その二人が手をがしっと握り合ってるだけの最後のコマを私は食い入るようにしばらく見つめ続けた。

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