『窓越しに見えるのは』
猫と鴉の攻防。
まずね、私は猫を飼ってないの。ちょっと縁あって週末だけ預かることになった猫の話なんだけどね。なかなか大人しくて手もかからない豊かな長毛のムスッとした良い子なの。で、どこ行くのかなって見てたら猫らしく窓辺に座ったの。飼い主のお迎えをそこで待つのね!って私もほっこりして。
窓の外なんて隣家の壁だから狭い空しか見えないんだけど、しばらくしたらバサバサッて音がして。上から鴉が現れて丁度いいでっぱりに足掛けて。で、カァッて一声。そしたら猫がぽーんって弧を描いてバク転した。私もびっくりして。鴉じゃなくて猫に。そのまま風みたいにベッドの下に消えちゃった。
面白いのはそれから次の日も次の日も、猫は窓辺で空を見上げるの。飼い主が迎えに来ても窓辺から離れないって全力で踏ん張るの。鴉が来るのを待ち焦がれて。だけど鴉が来たのは後にも先にもその一度だけってこと。
『赤い糸』
古くは縄だと思ったが、
神に頼る者はとかく赤い糸やら紐やらを結びたがるな。
己の守護や幸運を願い、
その繁栄を神に委ねて契りたいか。
見えない糸に目を凝らすより、
沸き立つ血にでも耳を澄ませたほうが早そうなものだ。
出会えた相手が既に誰かの気まぐれで、
他の誰かと紐結ばれていては堪らないが。
千切れる想いに身を焦がすのも運命ならば、
果たして神の定めし幸福とやらが、
僅かな個人の望みにも叶うと良いのだがな。
太陽が衒いなく輝いて温めるから
強い気流にのぼせ上がって気持ちまで駆け上がる
雨粒を抱え込んでも舞い上がって空で踊る
光にあてられ心まで潔白にでもなりそうな気分だ
『入道雲』
遠くから眺めたら一目瞭然の風物詩も
真下にいたんじゃ暑苦しいだけの分厚い雨雲だろう
時間切れで夕立ちとなるか心乱れて雷雨となるのか
光を飲み込み暗転渦巻く空を見ても、
まぁ…笑ってそうだけどな
『夏』
映画のミッドサマーってあるじゃない。スウェーデンの夏至祭が舞台の話。それで、たまたま休日が一緒だから、それなら映画観ようってなって、私がミッドサマーが見たいって言ったの。夏といえばホラーってわけじゃないけど話題作だからずっと気にはなってて。
そしたらすっごい渋るんだよね。珍しいなって思ったけどホラー苦手なのかくらいで、結局一緒に観てくれることになって。見始めたら、すぐに渋ってた理由がわかった。私も一瞬で後悔してすっごくいたたまれなくなったんだけど、だんだん可笑しくなってきちゃって。だって、この人すでに観たことあるんだってことも、初めてのおうちデートで一緒に観る映画じゃないってわかってて苦虫噛み潰したような顔で隣に居るのも面白くって!
映画はね、すっごく面白かった。予想もつかない展開で。だけど一番面白かったのは、映画が全部終わって笑い転げる私の横で「映画は、二度と見ない」って言ってたあなただった。
『ここではないどこか』
今時期ってそんな気分になるよね。祝日ないし雨多いし暑苦しいし丁度程よくダレる頃。だからね、ゴールデンウィークの賑わいをニュースなんかで見てさ、私もどこか行きたいなぁって気持ちの勢いで旅程組んで予約取っておくの。先月の私から旅のお誘いしておくの。
それでね、前に北陸新幹線に乗って長野に行ったの。信州上田。お城見たくて。駅に降りたら立派な銅像が立ってて。上田の武将の真田幸村。そこから上田城まで緩い坂をぽてぽて歩くの。途中に見えるみすゞ飴の看板が気になって。もちろん買ったよ。それでさ、着いたらお城あると思うじゃん。ないの。立派な門はあるんだよ。鎧着て幟持った武将も居て。だけど門の中にはお城ないの。お城だと思ってたのは櫓でさ。門の中には神社があった。そうなんだー…ってお守り買って立派な石垣ぐるりと眺めて、お城の横のお蕎麦屋さんで遅めのランチして。そしたら、そこのくるみそばが美味しくて!くるみだれってあんなに美味しいって知らなくて!!
また食べたいなぁ。今度作ろう。