今日のお題「幸せに」
例えば、年賀状の文面で。
例えば、教師が教え子に。
例えば、両親が結婚する子どもへ。
重さは違えど、他者の幸福を祈る言葉には、決別が込められているように思う。
「君を幸せにするから」とあなたは言った。でも、行動は何一つなかった。きっと、考えてもいなかった。
最初から、別れは潜んでいたのかもしれないな、と彼の言葉を思い出す。
今日のお題「何気ないふり」
朝起きて、顔を洗ってコーヒーを入れる。食パンをトースターにセットする。
これまで続いてきた日常が、今日も続いているかのように。
「おはよう」
答える声がない。こみ上げる悲しさを、意識して頭から追い払う。
平気な振りをして、ぎこちない朝が過ぎてゆく。
今は振りしかできないけれど、いつかこれが日常になる。
それはとても寂しいこと。耐えるしかないこと。
目にたまる水分がこぼれ落ちないように、まぶたをぎゅっと閉じる。
……耐えられるかわからないこと。
今日のお題「ハッピーエンド」
いつの間にか、図書館の窓から差し込む日差しは傾き、赤みを帯びていた。
年季の入った木製のテーブルに読み終わった本を置き、私はふぅ、と小さく息を吐いた。
他愛ない恋愛小説。物語の中で、ヒロインは素敵なヒーローに出会い、ライバルの女の子の妨害にも屈せず、愛を育み、ハッピーエンドに至る。王道の、ごくありふれた物語だった。
でも、物語の中でさえ、ヒロインとヒーローのハッピーエンドの周りには、たくさんのアンハッピーエンドが散りばめられている。
私は、ヒロインにはなり得ない。平凡で、臆病な一般人だ。ライバルの女の子にすらなれないだろう。ヒーローに憧れて、何をするでもなく勝手に失恋するモブ。
窓の外を眺めると、ちょうど校門を出る彼の姿が見えた。豆粒ほどの姿なのに、彼だとわかってしまう自分に苦笑が漏れた。肩のふれあう距離に女の子の姿。
「ハッピーエンド」
つぶやいて、彼らにはエンドではないのだと思う。物語と違って、関係が切れるまで彼らにエンドは訪れない。別れるまでエンドがないならば、ハッピーエンドとは現実にはなんて難しいんだろう。
でも、アンハッピーエンドで終わることはできる。この恋心を小さくまとめて、粉々に砕いてしまえばいい。いつか風にさらわれて、なくなってしまうだろう。
未練がましく彼の姿を見送って、本を返しに席を立つ。
ハッピーにしろ、アンハッピーにしろ、気持ちにエンドマークをつけるのは難しそうだ。
「浮気なんてしてないわ」
最近、ウキウキとおしゃれをして出かけるようになった妻が言う。
「高校時代の友人に再会して、出かけてるのよ。ただの友達。あなたにも紹介したでしょう?」
あの、ナルシストイケメンくんか。確かに顔はいいのかもしれないが、こちらを見下す傲慢さが顔にも態度にも表れていて、好きになれなかった。あなたは気づいていないけれど奥さん奪ってやったぞ、間抜けめ。と男の目が言っていた。
「信じてないのね。私の心の中を全部、あなたに見せることができたら、浮気なんてしていないってわかってもらえるのに」
出来ないから言ってるんだろ。心の中なんて、見れるようになったら困る。俺の心も見られるってことだ。
浮気が事実でも、まったく傷ついていない。妻のことなんて、目の前にいない限り、頭の中から消えている。惰性で結婚生活を続けているだけだ。多分、妻よりも、俺の方が愛していない。妻は、浮気を否定するくらいには俺をキープしておきたいと考えているようだし。
「わかったよ。信じる。メシにしよう」
信じていないけど。どうでもいいことだ。ああ、俺も誰がときめく人を探そうかな。