お題 日差し
暖かい日差しが冷たい世界に降り注いでいる。
こんな世界大嫌いだ。
こんな、あなたが消えた世界なんて。
他の女と仲良くするあなたなんて
私の知っているあなたではないもの。
こんなにいい天気の日でも、私が家から出るはずはない。
もうずっと、何もしていない気がする。
とてもじゃないけど、何もやる気にならない。
だって、
何を食べても味がしない。
何を見ても楽しくなんてない。
何を聞いても頭には入ってこな
何をしても浮かび上がるのはあなた。
こんな世界大嫌いだ。
だから私は、もう決めたの。
アイツに復讐するってね。
私の毎日をぶっ壊したアイツを苦しめてやりたい。
後悔させてやりたい。
なーに、殺してあげたりなんてしないよ。
もっと一生の苦しみを与えるの。
どうするかって?そんなの簡単。
私が死ねばいいのよ。
私のことが大好きだったアイツ。
そんなアイツへの愛を綴った紙を握りしめて死ぬ。
きっと、上手くいくわ。
あんなやつ、一生苦しんでしまえばいい。
心が死ねばいい。それでも生き続けてしまえばいい。
並大抵の人間は自死の決断など簡単にはできないもの。
そうと決まれば早速実行ね。
私の気分は高揚していた。あの暖かい日差しと同じね。
家に便箋なんてなかったから、コンビニまで買いに行く。
おっと、その前にやることがあったね。
もうこんな家に帰ってくるつもりは無いもの。
私は大きなゴミ袋を沢山用意した。
そして、目に見えるもの全てを放り込んでいく。
1番大切な物、一つだけ残して。
ゴミ袋に入るものは全て入れた頃には、日が沈み始めていて
日差しは濃いオレンジ色になっていた。
私は急いで真っ白い便箋と封筒、ペンを買った。
そして、近くのベンチで不格好な愛を綴る。
約5枚。書き終える頃には日差しはなくなり、月明かりに
静かに照らされていた。
さぁあとは死ぬだけね。
近くの山には立ち入り禁止の崖がある。
立ち入り禁止といっても、看板とロープが張られている程度
自殺には持ってこいの場所。
そして、よく知っている場所。
木々の間をすり抜けロープを超えると、
ぱぁっと視界が開けた。月明かりで少し眩しいほどだ。
愛の手紙はなくならないように肩掛けのカバンに入れて
薄いカバンをズボンで挟んだ。
よし、完璧。
やっと死ねる。死のう。
復讐まであと一歩のところまで行くと、かさかさっと
音がした。
嘘でしょ。熊??
黒い影がこっちに迫ってくる。
いくら死のうとしてたとはいえ、熊に食い殺されるのは
話が違うわ。
いっそ飛び降りようか。
そう思い体の向きを変えた時聞こえたのは
よく聞きなれた声だった。
「まって。」
なんで、なんでアイツがいるのよ。
ここに来ることは誰にも言っていないわ。
それでも私がアイツを見間違えるなんてことは
絶対にありえない。
「ここにいると思ってた。君ならここを選ぶと。」
そうか。アイツと出会ったのは他でもなくこの崖だったわ。
『なによ。今さら無駄よ。私は死ぬの。
それに、先にいなくなったのはあんたじゃない。』
「それは違うよ。だめ。だめだよ。お願い。生きて。」
そういうとアイツはこっちに走ってきた。
私は反応できなかった。
抱きしめられる。
あぁうざったいうざったいうざったいうざったい。
こういうところが大っ嫌い。死ねばいい。こんなやつ。
私はもしも崖から死ねなかった時用のナイフを取り出した。
それをきつく握って振りかざす。
アイツの鈍い声と血紅色が弾ける。
そのままナイフを抜いてやる。
流れ出生暖かい血紅色。
その時、私は直感的にこいつは死ぬってわかった。
そっか、今の私は人殺しだ。
本当は一生苦しめたかったけど、これもまた気分がいい。
んー私も死のうかな。
あなたのいない世界を生きる意味なんてないわ。
そうして私は、あの手紙を血紅色で染めてから
最期の1歩をゆっくりと歩いた。
左手首に輝くブレスレットは
私が唯一残した永遠に私が君のものという証だった。
{ブレスレットには“束縛”や“永遠”という意味がある}
お題 1年前
お題 あじさい
[別れてくれない?]
一通のメールで終わらされた私の恋。
本気で愛していたのは私だけ。
彼のくれた好きは全て偽り。
私の初恋はちゃんとあったようですべて偽りだったらしい。
いや、私からの愛だけは嘘偽りないものだった。更新された彼のSNSにはあじさいを背景に知らない女とのツーショッの写真。そこには1ヶ月と書かれていた。
あじさいの花言葉は〝浮気〟
お題 世界の終わりに君と
「寒いね。」
『寒いわ。』
当たり前だ。地球は今、氷期にある。
世界は今、終わろうとしている。
大気中に飛び交う無数の塵。
育たなくなる作物。食料を巡り戦う者。
そして、僕らのように諦めた者。
醜い世界だ。たったひとつの隕石によって
地球は変わってしまった。
きっとみんなわかっている。僕らはもう助からない。
それでも戦っているものが馬鹿らしく思える。
この寒い中、どうしてそうも動けるのか。
こんな世界に縛られているのはもうごめんだと思う。
「もうやりたいことはない?」
無意味な質問を君になげかける。
『あったとしても、できないでしょう?』
その通りである。この状況で実現できない夢を思い描くことはとても残酷だ。
「今日で俺らは自ら死ぬ。それであってるね?」
『ええ。そうよ。とても残念で仕方がないわ。』
僕たちは愛し合っていた。
この世界の誰よりも幸せな世界を生きていた。
だからこそ、僕らは死ぬ。
いつ死ぬか分からないこの世界に縛られるよりも
来世を願い自ら命を絶つことを願ったのだ。
そしてそれは、君も同じだった。
君の美しい黒髪を凍えるような冷たい風が抜けていく。
君の瞳からひとつ、涙がこぼれた。
そんな君を、僕は綺麗だと思った。
『あなたに出会えて、私はとても幸せだった。
それは私だけかしら?』
「それはないよ。僕だってとても幸せだった。
君とはまだ離れたくない。来世も僕と一緒になって
くれますか?」
『ええ。もちろんよ。私もそう願っていたわ。』
「それはよかった。」
再び沈黙が流れる。
こんな世界とはいえ、自ら命を絶つことには
多少の恐怖心が湧いてくる。
それでも僕らは死ぬ。
この地球に殺される。
僕らの死まで、あと一歩のところまで来た。
『本当に君はいいんだね?この世界を去っても。』
「あなたと一緒にいられるならどこでもいいわ。
貴方となりが私にとっての居場所なのよ。」
君の方を見る。
僕は近づいてきつく抱きしめる。
お互いの涙で肩を濡らしあった。
君の温もりは本当に温かくて一時も離したくないと願う。
それは、少なくともこの世界を生きている間には
叶わない願いだった。
ひとしきり泣いたあと、触れるだけのキスを交わす。
『それじゃ、一緒に逝こうか。』
「よろこんで。」
こうして僕らは、今にも崩れそうな高いビルから
解放への一歩を歩み始めた。