誰にも見られないおまじない
ジャノメの傘の帰り道
差し掛けたのは誰で
居たのは何か
見えてしまったらご愛嬌
見えなかったならお幸せ
真実知らずに目を閉じて
これにてお仕舞いまた来世
‹傘の中の秘密›
星が流れいく様を
美しいと君はわらった
水が流れいく様を
気持ち良いと君はわらった
血が流れいく様を
悲しいと君はわらった
時が流れいく様を
淋しいと君はわらった
天から全て流れ落ち
地の全てが流れ消え
君が流れいく様を
流れ落ちた音の意味を
何も無くカラ閉じた青に
正しさ一つ見つからない
‹雨上がり›
じゃんけんぽんで開いた手
七歩刻んで君から離れる
じゃんけんぽんで握った手
三歩刻んで君が遠のく
じゃんけんぽんで伸ばした指
六歩刻んで距離が離れる
じゃんけんぽんで隠された手
君が泣いて首を振る
離れ離れの爪の先
そうねそこには何も無い
‹勝ち負けなんて›
白紙のページを塗り潰せ
空白の行を塗り潰せ
空っぽのマスを塗り潰せ
裏も表も塗り潰せ
紙が減ろうと増えようと
時が減ろうと増えようと
果てまで潰せ 塗り潰せ
この一呼吸終わるまで
‹まだ続く物語›
一羽だけで飛ぶ鳥を
珍しいねと君が言う
大抵協力して渡るのだと
空のV字を指して言う
どうして渡るのと君に問う
行きやすい場所で生きる為に
図鑑を指して君は言う
ならば一羽が生きやすい
それだけだろうと思うけど
頁を捲る君の指
追いかける為に口噤む
‹渡り鳥›
清水が静かに流れるような
笹の葉の擦れるような
紙上を筆の滑るような
美しい音だと思っていた
‹さらさら›
大切な人とか
大切にしたい記憶とか
君の名前とか
君の言葉とか
そういう大事な物を
簡単にポイとは捨てられないから
気に病まないで 呪いにしないで
ただ一番簡単だった
大切にしなきゃいけないもので
一番簡単に捨てられるものが
この命だっただけの話
‹これで最後›
名前が無いの、とその人は言う
きっと忘れられてしまったのと
名前を付けて、とその人は言う
この世で一等素敵な名を、と
だから一つの名で呼んだ
その人は嬉しそうに頷いた
随分前にその人が捨てた
一等素敵だった人の名を
‹君の名前を呼んだ日›