例えば指先が冷たかったこと
頬が赤くて熱かったこと
柔らかな色が好きで
かっちりした服が好きだったこと
酸っぱい味が嫌いで
果物だけは食べられたこと
広い空が好きで
狭い街中を楽しんでいたこと
音色ばかり残った声のこと
フィルターのかかった景色のこと
褪色された記録と
美化された記憶の
中で
まだ生かし続ける思い出のこと
‹過ぎた日を想う›
私の顔を知らないくせに
私の名前も呼べないくせに
地上の歓声は私を指差し
拙く直線を繋いでいる
時々瞬く光を
偶に果てる光を
稀に気付く目が有っては
太陽に隠されて尚騒いでいる
馬鹿な者達
愚かな者達
後世だ発展だと言っても
私達の世界に追いつけないくせに
まあでもそれでもその矮小が面白くて
あまり退屈しないものだから
死したあの日に空に上げられた事
ちょっとばかり許してあげないこともない
‹星座›
きらきらと輝くシャンデリア
パチパチ弾ける細身のグラス
ふわり優雅に時々ポップに
代わる代わる跳ね唄う音
一口サイズのケーキを頬張り
そばで優しく微笑む人に
尊敬し敬愛する先輩との
学生生活最後の夜に
少しだけ綺麗に気取って
泣きたいような緊張を隠して
私はこの手を差し出した
‹踊りませんか?›
いつか君の執念が削れ果て
いつか僕の執着が崩れ落ち
そして君が僕以外と出会い
誰かと平穏に笑い合い
真に祝福されるべき幸せを得られたら
そうしたらきっと今度こそ
ただの友として向かい会おう
‹巡り会えたら›
君と再び出会えた事
君と今度こそ手を取り合えた事
穏やかで平凡な日々の中
他愛無いことで笑い合えた事
長い生を最期まで隣に居れた事
僕がずっと願っていた事で
奇跡的な今生だと思ってた事
君がずっと叶えたかった事で
その為に何でも出来てしまった事
不意に現れたその異形が
代償だと嘲笑うまで
その全てを知らなかった事
‹奇跡をもう一度›
黄昏は誰彼、
かわたれは彼誰、
その何方もが薄暗く、
出逢うヒトが誰であるか
確信できない明るさの時間。
だからきちんと誰が分かるまで、
見えた素振りをしてはいけないよ。
と、隣で手を繋ぐ君が言う。
全く見知らぬ君が言う。
酷く熱い掌が
大丈夫だと震えている。
‹たそがれ›
「花が咲くのは?」
「あと1年」
「旅行に行くのは?」
「あと1月」
「空が晴れるのは?」
「あと1週間」
「おやつのケーキは?」
「あと3日」
「幸せなのは?」
「これまでずっと」
‹きっと明日も›