帰ってこれてよかったね、と言う
よっぽどの悪い噂があったから
あんなところに行くなんて、と言う
お世辞にも良いところじゃなかったから
これからは真っ当に生きなさい、と言う
一応にも若い年齢であったから
でもさ、でもさ、そういうお前ら
私がしんどかったとき、皆見て見ぬふりしたくせに
嘘でも偽善でも紛い物でも抱き締めてくれた、
顧客でも商材でも私を見てくれた、
あの人を、あの人達を、愚弄する資格があるとでも
‹夜明け前›
空を愛し花を愛し
海を愛し星を愛し
光を愛し時を愛し
美しい物ばかり愛する
そんな君が美しいから
どうか僕のことなんか
絶対一生涯全く永遠に
気付かないで下さいな
‹本気の恋›
世間の行事
家族の誕生日
友達の記念日
君との約束
無表情な空白を
塗って貼って描いて潰して
そうして生まれた唯一の
たった一日の真っ白に
僕はその日と決めたのだ
‹カレンダー›
すうすうつめたいよことなり
ひんやりつめたいなめらかさ
なんにもしゃべらなくて
なんにもわらってくれない
さみしいさびしい
よことなりのきみ
それでもそれでも
それでもわたし
きみのしんぞうがほしかった
‹喪失感›
雪の結晶 水の流れ
光の加減に気紛れな風
手を振った君の表情すら
何一つ何一つ変わらない
同じ事など二度と無いのだから
‹世界に一つだけ›
心臓の音を聞くのが好きだった
君が抱き寄せて話すとき
楽しかったこと嬉しかったこと
悲しかったこと悔しかったこと
言葉と共に色為すリズムが好きで
嘘のこと物語のこと
現実のこと本当のこと
隠し事を筒抜けてしまう心が好きだった
ある日君は居なくなって
そしてある日帰ってきて
作り物の体で血肉のない身体で
泣いて泣いて帰ってきて
ごめんねとべたつく黒い涙
ありがとうとせめて拭った
音のない臓器でも
二度と真実を見抜けなくても
それでも帰ってきてくれた
約束を破らずにいてくれた
それだけでもう十分だった
‹胸の鼓動›