「覚えてる?」
「覚えているわ」
「君が花をくれた場所だ」
「あなたと星を数えた場所ね」
「此処で別れて」
「此処で出会って」
「此処で呪った」
「此処で誓った」
「憐れな君、此処をさいごにしよう」
「可哀想なあなた、此処でおわりね」
「……でも、惜しむらくは」
「……ああ、残念ね」
「「最期くらい、その声を聞きたかった」」
<この場所で>
誰にも好かれる人とは。
優秀な人?
いいや人間は妬む生き物。
優れている程、秀出ている程、悪意が纏わり付く。
身も心も美しい人?
いいや人間は欲有る生き物。
弱い手、強い手、己の得の為に無惨に毟り取る。
平等で優しい人?
いいや人間は特別を望む生き物。
天秤を傾け、破壊し、その尊厳を踏みにじる。
では、
誰よりも劣悪で、醜く、善性の足らぬ人?
いいや、いいや、それでは関心を得られぬ。
誰もお前を見てはくれぬ。
<誰もがみんな>
1本なら一目惚れ
3本なら愛しています
12本で付き合ってください
99本で永遠の愛
108本は結婚してください
「薔薇だけじゃないんだ」
「うん。多いやつは特にね、他でも成立するって」
2本なら二人だけ
4本なら死ぬまで変わらない
24本で一日中思っている
100本で100%の愛
365本は毎日恋しい
「頓知になってない?」
「それを言うなら1本もまあそう」
16本なら不安な
17本で絶望的
「そこまでして愛に拘る必要あった?」
「友情とか出会いの喜びとかも有るよ、一応」
「それで?」
「うん」
「こんな森の中連れてきた理由、まだ教えてくれないの」
「もう分かるから」
「ふうん?」
木々を抜けた先、鮮やかな風の色
一つたりと違えず咲き誇る永遠の庭
999本の花言葉は
<花束>
目をたわませ、口角を上げ、歯或いは口内を見せる。
「本来は威嚇の表情が、何で好意的な物になったんだろうね」
唇の端を指でついと持ち上げる。
緩慢に瞬きを繰り返すだけの目では、ピエロにも似た薄ら寒さだけしか感じられず。
「泣くも怒るもポーカーフェイスも出来るんだぞ。感情との信頼性だって欠片も無いじゃないか」
なあ、と今度は頬ごと摘まみ上げても、顔は歪むばかりで。
「そう言うのは詳しくないけど、一つ思うのは」
赤くなった肌へ汗をかいた紙コップを添える。
「スマイル0円っていくらでもガンつけるよってことだったんだな」
「情緒殺してきたか??」
<スマイル>
本当に誰にも知られたくないことは、
決して表にしてはいけないよ。
言葉であれ、文字であれ、態度であれ、
ひとつの油断が、ひとつの不自然が、
容易く秘密の膜を破いてしまう。
ただ秘密を暴かれるだけでなく、
事実は歪み、真実は汚され、
大衆小説が如く変質され、
誰かの捌け口に利用される。
表にしてはいけないよ。
心に封じて、想いを絶って、
身体と共に埋葬されるまで。
表にしてはいけないよ。
思い出してはいけないよ。
請い願ってはいけないよ。
『 』
<どこにも書けないこと>